介護における「自立支援」とは何か?

 「自立支援」とは何か?

心も身体も、機能的にも意識的にも不自由を感じることなく自在に使える状況なら、その人は自分の意思で生活環境を選択できるでしょう。

しかし、例えばこみちのように心を壊した経験があると、強くストレスが掛かりそうなタイミングを察した時に頭が混乱し冷静な判断ができなくなってしまいます。

感覚的には、時間の経過が段々と早くなって決断を迫られる状況の中で、焦らずに最後まで判断し続けるというようなストレスが起こります。

「もうできない!」と一瞬でも思って判断を怠れば、次々と迫るストレスに負けてしまい、落ち着けるまで機能停止になってしまいます。

厄介なのは、一度でも「破綻」を経験すると、その時の状況が意識下に残っているので、強くストレスが掛かる状況で判断をし続けていても、「もうダメだろう」「自分は失敗したんだ」と足を引っ張るような感覚が加わり、以前よりも遥かに「破綻」しやすくなってしまうことです。

潜在的な「感覚」や「意識」「記憶」を拭う方法があれば、それこそ破綻した体験を封印できるかも知れませんが、それができなければ以前よりもマージンをとって強いストレスを避けた生活が必要になります。

でも日常生活は普通におくれるので、周りから見れば遊んでいるだけとか、楽なことしかしないとか、そんな印象を受けるかも知れません。

しかし、逆を言えば、そんな生活環境をあえて作り出し、これ以上心を壊さないように生きているというのが実情です。

これは精神的な「不具合」の話ですが、手足にマヒなどがあったりして自由に動かせないというストレスを抱えて生きている方もいるでしょう。

それこそ、完全に自由自在な人を探す方が難しく、誰もが程度こそ違いますが何らかの不便と付き合いながら生きています。

つまり、「自立支援」という考え方は、右手がダメなら左手で、他の指は動かないけれど親指は動くというように、その人が自由にコントロールできることをベースに、何をどう環境や人の支援を受けて、より自由自在に生きられるのかを考えることになるでしょうか。

介護における「自立支援」とは何か?

介護における場合、多くは老化現象を発端とした機能低下によって従来の生活が維持できないことで問題となります。

これまでの介護士経験を含めると、「熟考する」「細かなことを続ける」「時間に合わせて行動する」など、心に強いストレスを伴う行動が苦手になります。

ある意味、認知症も脳の機能障害を伴うとは言え同様な症状で、「忘れること」で自分の負担を軽くしたいと身体が行っているとも言えるからです。

しかし、「時計を見ても時間が分からない」や「ご飯を食べたことも覚えていない」となると、その人だけでは生活を維持することは難しいでしょう。

そうなると「介護」が必要になります。

そして問題となるのは「自立支援」の考え方をどう反映させるべきかなのですが、「自分らしく」という意味で、その人に選択してもらったり、方法を尋ねたりすることで、実現したいと考えます。

しかし、そもそもそれぞれの選択肢の違いや質問内容に答えられない状況になっていた場合、どんな方法で「自立支援」を実現すればいいでしょうか。

現役の介護士時代、研修や勉強会という形で専門家や大先輩からの経験を聞いてきましたが、「高齢者とは〇〇なので」というようなストーリーが根底にあるケースが多く、未だに理解できない高齢者の意識を「どう汲み取るべきか?」と方法について語った人に出会ったことがありません。

概念的なことは言えても、人はそれぞれの人生観を持っていて、それこそ豪華な食事を何よりの生き甲斐にしていた人と、裕福故に豪華な食事が当たり前だった人とでは同じ「豪華な食事」でも意味が違うでしょう。

つまり、個人のこだわりを聞き出す役割を介護では「ケアマネ」や「社会福祉士」などの有資格者が行いますが、彼らだって社長経験や職人経験、主婦や子育て経験など、人生全てを知っている訳ではありません。

資格取得に伴い、各項目を指針に沿って学んだに過ぎないからです。

逆を言えば、そうすることでしか、「介護」を現実的に始められないとも言えます。

もしもその部分を行程すると、その流れから「自立支援」も定義するしかなくなります。

「高齢者の暮らしとは〇〇だ」という指針を決めることです。

現場の介護士は、そんな指針に沿って介護サービスを提供しています。

朝になると「起きる時間ですよ」と声を掛けて回るのも、時間の認識が低下した利用者にはありがたいサービスでしょう。

一方で、もう少し寝ていたいという生活をして来た人にも起きるように声掛けします。

有料老人ホームのような施設を除けば、「もう少し」に対する融通が限定的なのも介護施設という指針に沿って機能している故に避けられないのは仕方ありません。

介護士として働いていると、「自立支援」に取り組もうという働き方がありますが、そもそもルールありきで始まった自立支援の矛盾に現場は割り切らなければなりません。

介護士の中にその矛盾を過剰な労働で補おうとして疲れてしまう人がいますが、そもそもルールありきで始まったことを考えると、介護士としては100%を意識し過ぎないことも大切で、その時どきでできることをすれば十分だと思うべきなのです。