コロナ禍で介護施設に何が起こったのか?
昨年の2020年春から、多くの利用者が施設を卒業し仲間となりました。
その中には、今世での役割を終え、本当の意味で「ゆったりとした時間」を手に入れた人もいます。
しかし、頭と精神が一体ではないので、理解しているつもりでも「家族に会えない」という現実は利用者の精神に何らかの影響を与えてきました。
利用者の声
その日、こみちはある利用者がいる居室へと向かいました。
別件の用で訪ねたのですが、「お願いしたいことがある」と切り出されて「何でしょうか?」と答えながらある利用者の脇にしゃがみ込んだのです。
「これからきっと、私も知らない私になると思うの…」
「はい…」
「でもね。どんな私になっても、私らしく生きていたいの!」
「分かります」
「だから、こみちさんの力を貸して欲しいの」
「私にできることなら頑張りますよ。でも、全てに応えることは難しいかもしれません」
「いいの。その気持ちが聞けただけで」
「でもね。まだまだ元気が回復してきますよ。笑顔も増えた。また一緒に中庭を散歩したいですね」
そんな会話が、5分くらいの間で起こりました。
皆さんはそれを聞いてどう思うでしょうか。
こみちは、その方の認知機能が低下傾向にあり、最近は表情も少なくなったことを気にしていました。
しかしながら、まさかそんな話をされるとは思っていません。
認知機能が低下し、段々と今まで通りにはできなくなってしまい、いつかはそれさえも分からないほど脳の機能が低下してしまうかもしれない。
確かに、認知機能が低下された利用者を何人も見てきましたが、レビー小体型認知症やアルツハイマー型認知症など、それぞれに特徴的な症状を見せてくれました。
そして、どちらかというと既に兆候が見られた段階から入所されるケースがほとんどで、それまでの人格を知らないまま応対してきたというのが本音です。
しかし、今回のケースでは、既にどんな人格の人なのか知っている利用者で、そんな人があるきっかけから脳機能の低下が顕著になったのです。
ただ、その方の話を聞き始めた時に、「これが介護の世界」だとも感じました。
当たり前の大原則ですが、認知機能が低下しても、そもそもの人格や誇りまで失ったのではありません。
介護士はどうしても「利用者」として相手を見てしまいます。
しかしながら、そんな利用者もついこの前までは我々のように自宅で我々と同じように暮らしていました。
別の利用者の声
この方はとてもしっかりとされていて、在宅復帰の可能性が高い利用者の一人です。
しかし、脳性麻痺の後遺症から、歩行が少し不自由です。
ある日、この方の居室を訪れた時、室内で歩行器を使って歩行練習をされていました。
実は以前までは、交代で介護士が歩行練習のお供をさせていただいていたのですが、ある時期から行われないことになり、室内練習を見て驚きました。
「いつも練習されていたのですか?」
「無理できないので、1日おきに10分だけ」
分かってもらえるでしょうか。
この利用者が自身の居室で目立たないように自主練されていたのは、忙しい介護士への配慮からです。
でも本来なら、それをカバーできることが施設の評価ですし、存在意義ではないでしょうか。
何もかっこいいことを言うつもりはありませんが、介護士の仕事は本来ならそんなサービスに向けられるべきだと思います。
そして、大広間ではもちろん何度も話していますが、居室で二人きりでの雑談を兼ねた会話は初めてかもしれません。
「まだこみちさんは若いから想像もできないかもしれないけど、老いていくのは怖いことよ」
と教えられ、さらに「できれば息子夫婦と暮らしたいの。でも私が行くと迷惑になる。分かっているのよ」と言うのです。
実際、心身機能としては在宅復帰できる場合でも、家族からの支援が得られないことも珍しくありません。
この方の場合はどういう理由で入所が継続されているのか、こみちには詳しくは分かりません。
ただ、人目を避けて歩行練習を続ける姿を見て、「これが介護の世界」と感じました。
崩壊の危機を迎えた施設では?
スタッフ間でのマウント行為や、事務的で表面的な思惑で行動することが目立つようになった施設内の雰囲気に、こみちはもううんざりしています。
そして、とても残念なことですが、利用者は全ての介護士に同じ話をするのは限りません。
つもり、どんな気持ちで毎日を過ごしているのかを知らないままの介護士もいます。
なぜ、こみちに話を聞かせてくれたのかと思います。
こみちが本当に役に立てるとは断言できませんが、介護士として働く時に忘れてはいけない感覚だと思うのです。
介護施設が崩壊するとしたら、そこには利用者目線が失われて、私利私欲だけの介護士が自身の保身に走ってしまった時でしょう。
でも、意外とそんなスタッフが増えました。そして、退職もされました。
その結果、慢性的な人員不足で、踏み込んだサービスまで手が回りません。
そして、サービスが低下減少したことで、退所を決意された利用者もいます。
ズルズルと評価が下がり続ければ、やがて施設の閉鎖や売却まで起こるでしょう。