介護職のジレンマ
仕事というものは、その特性上、より高度な要求に応じることで高い報酬を得られるようになっています。
例えば、超一流のレストランで食事をした場合、食材はもちろんですが、その調理法も一流でなければいけません。
そして、見落としがちなのは、客が目に触れるありとあらゆるモノもその水準に達していなければいけないことです。
具体的には、店内の雰囲気、スタッフの品格、さらには照明や音楽なども「食事」の一部なのです。
そう考えると、「料理人」として一流だとしても、一流の店になるかは判断できません。
料理人の関わる領域は限られていて、入店してから食事を楽しみ、店を出るまでの一部分に過ぎないからです。
その話を介護現場に用いたらどうなるでしょうか。
先ずは客である利用者を満足させるために求められ「質」を考えましょう。
料理の世界では、同じ食材でも産地や旬など、その物が持つ良さは絶えず変化していて、それに対する知識や入手方法など、さまざまな要件が満たされなければ「一流」を保つことはできません。
ところが、介護現場において、利用者の健康的な側面、希望や要望に関する側面、利用者家族の意向という側面など、「一流」を定義することがとても困難だという事情があります。
つまり、たとえ「一流のサービス」だったとしても、それをよしとしない利用者であれば、変更も起こり得ます。
言うなれば、庶民的な料理が良いという利用者には、それに応じた料理こそが求められるのです。
そうであるなら、介護現場で働く介護士は、超一流のサービスだけでなく、庶民的なサービスなど、求めに応じて幅広い提供方法ができなければいけません。
つまり、丁寧な介護だけでも、手早い介護だけでも不十分なのです。
さらに、介護現場で起こるのは、一流よりも庶民的な介護が優先されることも多いという現実です。
利用者のニーズに耳を傾けることから、さらに細かなサービスの糸口を探そうとする介護士がいても、過不足ないサービスを提供する介護士がいれば、利用者のニーズを深めることができません。
そこには、一流のレストランに来客する人が、ある一定の味覚や食通であるのに対し、利用者はとてもさまざまで、より深いニーズを求めていないケースも多分だからです。
その流れから、どんな利用者に対しても、平均的なサービスを提供することが介護であり、違いは手早さに限られるという事情も少なくありません。
確かに、一流のレストランを目指すオーナーの気持ちとは別に、二流や庶民派のレストランの方がたくさんあって、「一流」は一般的ではないので、介護でも「庶民派」に照準を合わせてしまいがちなのです。
確かに、現役時代、社会的に高いポジションであった人は、庶民の感覚とは異なる苦労や努力をしていたはずです。
それ故に培われた感性もあるでしょう。
しかしながら、現役を離れると感覚も鈍り、神経の高ぶる感覚からは距離を置くことも考えられます。
つまり、介護という面では、「一流」であるメリットを見出し難いと思うのです。
介護現場で注意しなければいけないのは、質だけを求めた介護サービスにならないようにすることです。
介護現場を評価するのは「組織」の質
一流のレストランの厨房を見ると、メインとなるコックの他にもたくさんの料理人が働いています。
そこには、1人でできる仕事量以上の仕事をこなすための「組織」があります。
良い料理人は、その人の評価ですが、良い店は「組織」の評価になるのです。
この「組織」に対する意識がないと、会社は伸びませんし、高い業績を残すことは不可能です。
そこで、介護施設でも「組織」に対する認識を持ち、より高めるための対策に乗り出します。
問題なのは、誰が介護現場の「組織」を作るのかということ。
組織というとリーダーという言葉があり、指導者なども組織作りに関わると思われます。
もちろん、間違いではありません。
しかし、正確とも言えません。
組織を作りあげるには、そこに加わるメンバーの意識をどうまとめて、推進力にできるかがポイントなのです。
つまり、指導者やリーダーは、それを代表して行う人で、メンバーの気持ちを無視してできるものではありません。
介護現場でよく見かけるのが、リーダーになったつまりで他の介護士に指示を出す人です。
リーダー的な役割のつまりなのですが、「組織」としての成長は全く期待出来ません。
それどころか、メンバーたちから反感をかい、組織としての連帯感が失われる結果にも繋がりかねません。
組織作りには、メンバーの気持ちが大切ですから、「なぜに組織を高めたいのか?」「それにはどんなことが必要なのか?」など、気持ちを共有させる機会が必要です。
特に目的に対する理解をするには、背景となる事情にも認識が求められます。
会社に属する正社員同士の方が組織化しやすいのは、事情を共有しやすいことも関係しています。
パートやアルバイト、派遣スタッフという立場は、組織に加わるというよりも、組織化された制度に従う存在だからです。
現場で似たような作業をしていても、組織作りにどう関わったかで評価に差が生じます。
また、組織作りを主導する人に対して、メンバーたちが敬意を感じていることも重要です。
一流レストランの厨房でも、メインコックを支えるメンバーたちは、彼の仕事ぶりを見ることで自身の成長に生かしています。
介護現場で、どう仕事ぶりを見せ、スキル向上でどんなことができるのか具現化することに意味があります。
しかし、スケジュールに沿ってバラバラになることが多い介護現場では、良い仕事を見る機会も多くありません。
この習慣も、ある程度経験を積んだ介護士が伸び悩む一因です。
介護現場で仕事ができる介護士になるには?
オムツ交換などの介助ができるか否かではなく、求められた時に動ける人が仕事のできる介護士です。
介護現場では、繰り返しトイレ誘導が必要だったりしますので、ついつい依頼を断りたくもなります。
また、別の介護士が代わってくれたらいいのですが、手間の掛かる仕事は手を出したがりません。
そんな介護士を、仕事ができないと評価するべきでしょう。
仕事ができると言うと、一定水準以上のテクニックがあると思われますが、介護に関しては当てはまりません。
辛いなぁと思ってからも、1つでも2つでも現場仕事をすることが介護士の評価なのです。
組織化のところで、誰が作るのかで触れましたが、他の介護士に指示を出すのは介護士の仕事ではありません。
動くように支援しながら、自身も同じ作業をこなさないといけないからです。
実際、現場の業務改善は施設運営サイドで検討されることで、現場の仕事ではないのです。
そう考えた時に、介護士は現場だけを視野に入れて働くべきではありません。
やはり、施設の対外的な評価を向上させるために何をするべきか考えて、管理職を目指すことが必要です。
そのためには、介護福祉士の資格が取っ掛かりになります。
この資格取得までに現場仕事をマスターして、さらにどう能力アップさせるかがポイントです。
また、個人スキル同様に、組織運営の方法にも関わることで、介護現場のサービスを向上させられるでしょう。