利用者はとても正直な態度
介護に携わっている人なら、利用者がとても正直に感情を表現することを知っているでしょう。
もっとも分かりやすいのが「視線」です。
特に不安な時などは、信頼できる家族や介護士を目で追います。
また、「愛想笑い」も少ないので、相性の合わない介護士に支援されている時は側から見ていても分かるほど無表情になることもあります。
見ていて辛い介護士の自尊心
「〇〇さ〜ん! 私ですよ!」
利用者の両肩をつかんで自分の名前を伝えてみるものの、微笑んでもくれない介護士を見るのは切ないものです。
そんな介護士だって、日ごろの介護で手を抜いているつもりはないのでしょう。
だからこそ、利用者が自分に親しみを感じていて、声を掛けると笑みを浮かべて喜んでくれると思いたいのです。
しかし、不思議と利用者は素っ気ない態度をとります。
「〇〇さん、傾眠かもね! 食事量どうだったのかなぁ」
適当な理由をつけて、利用者の元を去ってしまう介護士の背中はとても切ないものです。
介護のコツ
利用者の心理状態をどう予測するのかがポイントです。
認知機能の低下が見られるか否かで、注意点も変化します。
また、共通しているのは、「利用者の目線」を探すことです。
心理状態というのは、表情や手足の動き、瞬きや視線、他にもさまざまな所に現れます。
これは、一般人にも言えることで、ウソをついた時や承諾し得ない時など、心に何か大きな変化があると、それが身体にも現れるのと同じです。
少なくとも利用者は、心理状態を自分から隠そうとはしません。体裁や性格的な問題から、態度に現れにくいことはあるかもしれませんが。
いずれにしても、「心理状態」を間接的に読み取る方法はあります。
高齢者介護においては、さらに意識の「鮮明度」も重要です。
認知機能は時間帯や気分によっても上下動していて、どう見ても今は無理だろうなぁと思える表情を見せる時と、意識が明確でドキッとさせる言葉を発したりする時もあります。
ある法的な手続きをするために、利用者家族が保険外交員を連れて施設を訪れました。
難しい話など出来なさそうな利用者なので、家族も説明を聞かせて「承諾」だけをもらうつもりだったのでしょう。
ところが、その利用者は保険外交員に向かって「キミは名刺すら出さずに話始めるのか?」と言ったのです。
形式的に説明すれば良いと思い込んでいた家族や外交員にとっては、「ハッ!」とした瞬間だったのではないでしょうか。
つまり、利用者は認知機能が低下しても、何も分からない訳ではありません。
ある程度のことは黙っていたり、気づかないふりをしたりしています。
逆を言えば、介護士の心理状態さえも気づいているかも知れません。
そこで1つ言えるのは、「目線を探す」ことなのです。
ここでいう「目線」とは、視野や価値観などにも通ずるニュアンスを持っていて、その状況で利用者がどう感じているのかを「予測」し、「観察」することを指します。
先の例で「名刺を出さないのか?」と言ったのも、利用者が相手に「釘をさした」のでしょう。
利用者が微笑んでくれるのは、必ずしも相手を慕っているからとは限りません。
場合によっては、懸命に働く姿を見て、「親心」を感じていることだってあるわけです。
少し心を許してくれたからと言って、振る舞いが雑になってしまえば、その関係もすぐに壊れてしまいます。
特に介護士は、自分から先に「尽くすこと」で、信頼関係を密にしなければいけません。
「相手が言うことを聞いてくれないから、何もしてあげない!」そんな振る舞いは、介護士としてご法度です。
こみちの勤務するフロアーで、ある介護士が自分の担当だけして周りを助けない働きぶりが問題視されていました。
別の介護士は、「自分の得しか考えていないから、こっちだって手伝わないんだ!」と言い出す始末です。
しかし、その介護士も、利用者に対して同じような振る舞いをしてたりするのです。
「今しているんだから、ちょっと黙っていて下さい!」
介助してあげていると言う態度が利用者に伝わり、指示に従ってくれない苛立ちから出た言葉です。
ここで大切なのは、自身の周りで起きている状況は、自分にも深く関係することがあると言うこと。
認知機能が保持される利用者の場合、介護士の心理状態が読まれていると思ってもいいでしょう。
「自分の方が上の立場で、介助してやっているんだ!」と言う気持ちは、確実に見抜かれています。
認知機能が保持される利用者の場合、一般人同様に「愛想笑い」や「建前」も使います。
利用者の「お世辞」や「嫌味」を気付かずに、間に受けてしまう介護士も少なくありません。
褒められれば素直に喜んで良いと思うのですが、そこは大人同士の駆け引きと同じなので、リップサービスなのだと認識することも必要です。
介護は利用者の生活を支援することですから、利用者と競い合う関係ではありません。
相手の考え方をむげに否定する必要もないですし、自分の方が優れていると認めさせることも求められていません。
相手が優越感に浸り「介護士さんよりもうまく出来たみたい!」と喜んでいれば、「負けました。本当に上手ですね!」と拍手することが仕事なのです。
だからといって、自分を卑下する必要はまったくありません。
大切なのは、利用者がこの瞬間をどう過ごせたかと言うこと。
遠い5年後や10年後の未来ではなく、「今」であることがポイントです。
実際、ケアプランでも目標が立てられますが、その期間は数ヶ月や半年程度です。
それだけ短いスパンの中で、支援策が組み込まれています。
「謙虚さ」と「懸命さ」
介護士にだってできないことがあります。
また、時間の関係から利用者に無理をお願いしなければいけないこともあるでしょう。
「時間がないの! だから早くして!!」
と騒ぎ立てても、利用者は簡単に動いてはくれません。
逆に強引に従わせれば、介護士との信頼関係は低下します。
ところが、しっかりと説明すると、「分かったよ!」と言ってもらえたことが何度もあります。
「良いですか?」
逆にこっちが驚いて、確認したほどです。
「こみちくんが困るんだろう?」
「ええ、ありがとうございます」
説明の詳細を理解からではなく、介護士であるこみちの表情を見て、利用者が動いてくれたのです。
逆に、嘘の説明や口先だけのうまさに頼った介助は、利用者から警戒され、心を開いてはもらえません。
話上手な介護士は、高等なテクニックで利用者を扱います。
利用者の気持ちを掴み、やる気を引き出すことがとても上手いトークを使います。
しかし、そこまでのテクニックがなくても、利用者は意外なほど介護士を見抜いていて、こみちのような介護士にも「仕方ないなぁ」と付き合ってくれるのです。
もしもこみちが利用者の気持ちを顧みなくなれば、利用者の気持ちも離れてしまうでしょう。
「あれ、あんなにも親しかったのにどうして?」と思った時には手遅れです。
できない時は嘘で誤魔化さずに状況を説明し、代わりに出来ることを忘れずに伝えましょう。
ある意味で、そんな謙虚さと懸命さが介護のコツではないでしょうか。