「イラストレーター」の仕事
意外な誤解があるとするなら、仕事としての「イラストレーター」は「製作」と同じくらい「ヒアリング」を大切にしています。
例えば、ポスター制作を仕事として請けた時に、「絵が描ける」と言うスキルは大前提だったりします。
つまり、方針が決まって製作するのは代表的な作業ですが、それはあくまでも「ヒアリング」した後の話です。
依頼主が複数人いて、イラストレーターが一人で出向き、彼らの雑談のような話を聞きながら、隠れたイメージを形にする方向性を導くことも重要なことです。
言ってしまえば、ほぼ社内で製作だけするイラストレーターもいますが、社外でヒアリングをして、方向性を形にするイラストレーターもいます。
彼らを「アートディレクター」と呼んだりもしますが、イラストレーターであることに変わりありません。
AI生成の手順
例えば、未来の車を創造する案件を請けたとして、AI生成を使えば、簡単にそれっぽいデザインを描いてくれるでしょう。
そこで、問題があるとするなら、描いたイラストの制作意図を「どう説明するか?」の部分。
「未来っぽい車」を描いたイラストが、なぜそうなったのかを依頼主に説明しなければいけません。
その時に「未来っぽい」と言うワードで描いたとしても、求められるのは「未来」をどう解釈し、そこからどう活かしてイメージを起こしたのかと言う部分。
もうガソリンエンジンは使われていないのか。
電気自動車が抱える問題点を未来的にどう解決し予測したのか。
そこまでを考えられる「思考」をAIが再現するのは、事実関係を根底から理解し、人間社会の構造や仕組みまでも認識しなければ難しいと思います。
つまり、「未来っぽい車」をそれっぽく描くこととは全く意味が異なります。
とするなら、「イラストレーター」と言う職業が今とは違う形になったとしても、「ヒヤリング」を経て製作へと進むプロセスは変わらないので、様々なニーズを汲み取り、提案するスタイルが消滅するとは考え難いでしょう。
ただ懸念があるとするなら、AI社会が主体化されて、AIありきで人間の暮らしや経済活動が行われるように慣れてしまうことでしょう。
かつてこんな話がありました。
プロとアマチュアの違いは、完成度ではなく、信頼度とも言われます。
つまり、困難な条件や状況でも、納品物を一定の完成度に保つ技術で、「できなかった」で終わらせない配慮がプロの仕事です。
ところで、現時点のAIって、自身が描いた根拠を文字に起こせるのでしょうか。
成果物を見て、その感想を答えるには、感情表現を理解する必要があるので、とても難しいことに思えます。
よくあることとして、チーム作業でAIが他のイラストレーターたちの作った成果物を依頼主のニーズと照らして、融合するのではなく、良いところを取捨選択することができるのかと言う部分。
「なぜ、そう考えたのか?」
自分のこととして答えるのではなく、様々な立場で意見する人がいて、しかもそのどれが正解とも言えない時に、「今回はこれにしよう。なぜなら、こういう方針が求められているから」と判断できる時代が来れば、それはもう人間との共同ができる人工知能だと言えないでしょうか。
どこかで見たような絵や映像は現時点でもAI生成で高品質に制作できるようになりましたが、今後、AI自身が方針を提案し、目標や意図まで語るようになったら、イラストレーターと言う仕事も概ね代行できる時代が到来したと考えて良さそうです。
そこまで人間の考えや思考を広げてしまうと、善悪や不正、弱さや脆さなど、人間にしかない感情をどう理解するのか、教えるのか興味深い話です。
だからこそ、イラストレーターや絵師は、何かをただ模写するだけではなく、「存在感」や「雰囲気」にはこだわって描写するべきだと思うのです。
いい役者の笑みが、大袈裟過ぎないちょうどいい感じなのも、場を察して演ずることができるからです。
爆笑も笑いではありますが、絶妙さってあるでしょう。
プロやプロを目指すなら、その表現にはこだわっていたいですよね。