生き抜く覚悟を決めた中高年の労働者に出会った話

 こみちはまだ覚悟していない!?

副業というべきか、本業と呼ぶべきかは別として、こみちには請負という形で仕事をもらっている取引先がある。

この前、仕事の出し方のことで話し合いがあって、こみちはそろそろ請負から手を引こうと考えていた。

単純に仕事そのものが嫌いになったというわけでは無いけれど、かと言ってこの先に何か進展があるとも言えない。

つまり、将来を考えるとそろそろ別の会社との出会いに進むべきだと思案していたからだ。

そんな中で、こみち同様に今の取引先の下請けをされている人に声を掛けられた。

「こみちさんですよね? 私、〇〇と言います」

そんな風にあいさつされたけど、〇〇という名前も2週間くらい前に耳したことがあったほどで、実はこみち、それまでどんな下請け業者がいるのか知らなかった。

知らなかったというよりも、知ろうとしなかったと言った方が正しいかも知れない。

別の業者がどれくらいの単価でどんな仕事を振ってもらっているのかを詮索してまで、会社との繋がりを強固にしたいとも思っていなかったからだ。

もちろん、いきなり名乗られた時も、「お世話になります」という言葉くらいで、それ以上は互いに何も言うことはなかった。

ただ、社内にいた社員が、その下請け業者に告げた言葉を聞いて、こみちとは全く異なるスタンスでその会社に深く関わっていることに気づかされた。

年齢はこみちよりも上だと思う。

まぁ見た目の感じだから同年代ということもあるけれど、年下だったら驚いてしまう。

だから、50代、いや60代ではないだろうか。

どんな仕事でも気にせずにもらいたいというなら、「何でもできます!」というスタンスで関わっていけばいい。

ただ、会社によっては損害が発生した時に法的な手段に出ることもあるから、こみちはあまり曖昧なまま仕事を何でも請けるのは気が引ける。

20代くらいで起業し、とにかく売上を稼ぎたいというギラギラした勢いにはなれない。

やはり、事前にうやむやにしたことでトラブルになって後味の悪いことになった時のことがどうしても頭に浮かんでしまう。

明るく気さくにあいさつしてくれたその業者も、多分株式会社ではなく、個人事業主という形で稼がれているのだろう。

つまり、雇用保険や労災保険に加入していない状況で、報酬と引き換えに労働力を提供していることになる。

例えば、納品物に瑕疵(欠陥)があった時に、その修復を誰がどこまで責任を持つのかなどは、請負で揉めるポイントだろう。

通常の作業で引き起こる瑕疵は元請の責任とし、加工段階での瑕疵については下請け業者の責任になるというような指針がないと、時に「このミス直してよ!」と指摘されて下請け業者は困惑することがあり得る。

「いやいや、受け取った時からありました! ウチのミスではなくて」

と言える下請け業者など滅多にいない。

パワーバランスを考えると「検討してみます」というような曖昧な対応をとって、さらに稼ぎにならない仕事を受けてしまうことがある。

もう一つ例を挙げると、個人事業主は労災保険に加入してしないから、納品物を運搬中に事故に巻き込まれても、取引先にその損害を請求することはできない。

もっと言えば、納品に掛かる時間やガソリン代も、最初の契約額に組み込まれているくらいだ。

だから、納品方法などもしっかりと確認しておかないと、思わぬ出費があったなんて笑い話にもならない。

そんな風に考えてしまうこみちだから、あいさつしてくれた下請け業者がこの後、新しい工場に移動すると聞いて、逆に頑張っているなとも思った。

移動時間やその交通費は会社から出してもらえるのだろうか。

雇用契約とは異なり、最低時給の担保も受けられない下請け業者は、気をつけないと取引先に良いように使われてしまう。

「〇〇さんがいて助かります!」という言葉を鵜呑みにして、何か役に立っていると思うのは自由だけれど、何か起こってからでは互いに遅い。

もちろん、冷酷な会社ばかりとは限らない。

下請け業者にも温かくアットホームな関係を築いてくれる会社だってあるだろう。

でも、特別な才能を活かしている人でもない限り、下請けという選択よりも社会保険なども受けられる正規雇用の方が絶対におすすめだ。

それは仕事ができている時は同じかも知れないけれど、事故や病気、加齢などで今までと同じように働けなくなった時に差があるからだ。

多分、めちゃくちゃいい人なんだと思う。

正しいことをしている限り、トラブルなどには巻き込まれないと思っているような。

でも、会社と個人がトラブルになると、体力的な面でも個人は苦労する。

宙に浮いた納品物の報酬は当然支払いを止められるだろうし、そこから訴訟にでもなれば、個人は生きて行くために別の所で働きながら対応にも追われるようになる。

休みの日が全て別の予定になって、次第に追い詰められてしまうのはどうしても個人の方だ。

だから、仕事そのものができるかどうかだけではなく、ある部分では少し距離も保たないと個人事業主は続けられない。

まして、一人で立ち回るような動き方では、大量の受注にも対応できないし、太いパイプを築いてもその効果が半減してしまう。

個人事業主同士の繋がりや一人親方ではなく会社組織にするくらいのことも見据えないと、下請けという立場は厳しい面が目立つ。

改めて、こみちには真似できないなぁと思ってしまった。

でも、「自分の生きる道はここだ!」と思って、頑張ろうとしている人もいるのも事実だ。