9×9の盤面に見える世界
こみちが観たのは、youtube にアップされていた女流棋士とのハンデマッチの様子でした。
藤井聡太棋士には持ち時間10分。女流棋士には60分与えられていたようです。
持ち時間を失うと、一手を60秒で打たなければならず、奥に時間を計る人がいて、30秒を過ぎると、10秒毎に40秒、50秒と声を出します。
その時点でも、こみちなら30秒までに一手を決めようと焦るはずです。
というか、将棋はそもそも向いていません。
一方で、藤井聡太棋士は50秒とアナウンスされても全く焦った様子はなく、その後の1、2、3、と続くカウントになって、何事もないようサラッと一手を出しています。
対局は、藤井聡太棋士の攻撃でした。
とりあえず駒の動かし方くらいは理解しているので、こみちも次にどう交わすだろうかと思いながら観ていたのですが、「もうダメじゃん!」と思って諦めた場面でも、女流棋士の一手を見て、「なるほど」と驚かされます。
こみちがダメだと思ってしまったのは、藤井聡太棋士の攻撃を受けようとしたから、しかし女流棋士の出した答えは攻撃することでした。
さらにその新たな流れによって、問題だった藤井聡太棋士の攻撃も分散されて、結果的に難を逃れることになるのです。
「この女流棋士、めちゃくちゃ強いじゃない」と思っていました。
しかし、なぜ藤井聡太棋士が強いのか。
交わしたと思って安堵したと思ったら、ポンと打つ一手に「ん?」となります。
言うなれば、なぜその一手だったのか、前後関係がとても希薄だからです。
素人同士であれば、無駄な一手など日常的かもしれませんが、何十手先まで読めるというプロ棋士だけに意味のない一手などあり得ないでしょう。
そう思うからこそ、次の一手を特に慎重に考えて、60分の持ち時間がどんどん減ってしまいます。
持ち時間が30分を切り、15分を切り、藤井聡太棋士が時計をチラ見しているのが見えると、盤面だけではなく、持ち時間というスタミナも消耗させているようでした。
実際、持ち時間を失い一手を60秒に制限させれからは、さすがの女流棋士も対局の重要な場面で最善と思える一手をどこか焦ってしまうシーンがありました。
藤井聡太棋士は、一定の圧力で存在感を保持しつつ、攻撃を続けます。
そのプレッシャーがとにかく長くて、対戦者には脅威です。
盤面は金とか銀でも手に入れば藤井聡太棋士の勝ちだろうという所、女流棋士の銀が物凄い攻防で狙われます。
それでもこみちならあっさりと手渡した時も、新たな一手で回避する様は感動させられました。
しかし終わりは突然にやって来ます。
女流棋士が小さく頭を下げて、それを受けた藤井聡太棋士も頭を下げます。
ガッツポーズをすることもなく、藤井聡太棋士は口元に手を置き、盤面を見て天井を見て何か考えている様子です。
そしてこみちには聞き取れないくらいの声で、女流棋士に何か告げました。
どうやら二人だけで総評でもしている感じです。
盤面を覗き、藤井聡太棋士の声に女流棋士が何か反応するかのように考えていました。
本当に久しぶりに将棋を見ましたが、同じ駒の動きではないくらい、藤井聡太棋士も女流棋士も駒と駒との連携に強さがありました。
改めて、どんな世界でもプロは凄いなと感心させられます。