介護士が感じる「理想的な介護施設」を作れないだろうか?

 介護現場で感じること

利用者主体の「自立支援」を掲げつつも、現実は効率的な介護サービスになっています。

その理由は、介護現場における人員の人数でしょう。

しかし、今の倍に増やせば、単純に人件費も2倍になります。

そして介護サービスの大半が税金であることを考えると、一般国民に求める税金を増やすことにも繋がります。

高齢者にとってより良い環境と、現役世代の負担を考えた時に、簡単に納税額を上げられないのも無理はありません。

ということは、現場で働く介護士の人員を増やすのも容易ではなくなります。

例えば、介護士のサービス残業(出勤時間前の労働も含む)を厳密に申告すると、月に10時間を超える人もいるでしょう。

夜勤帯勤務者が、予定時刻の2時間前には職場に顔を出し、まだ実質的な勤務には入っていないものの、日報などに目を通すなど準備を始めることはざらにあります。

〇〇時から勤務となっていて、その5分前に来るスタッフがほとんどいないように、自然とサービス残業があるのも介護業界では当たり前かも知れません。

目処がつくまで、退勤予定者が手伝うということもあります。

食事など、スタッフが必要となる時間帯に定められた人数だけでは大きな負担となることがあります。

想像してみてください。

食事の支援をしなければいけない利用者が3名いて、服薬の提供、食事の片付け、記録、歯磨きやベッドへの寝かしつけを複数名、全てを1時間で終えるスピードではアウトです。

食べたがらない利用者を同時に食べてもらい、食べ終えた人には薬を準備して、泡たたしくスタッフは一人でこなします。

そして、トイレにも誘導しますし、もちろん食後なので歯磨きもありますし、中にはオムツが臭うこともあるあるです。

そんな時に、介護士なら「もっとじっくりと向き合うような介護サービスはできないだろうか?」と思うものです。

中には自分で理由的な介護施設を運営したいとも思うでしょう。

しかし、冒頭でも触れましたが、介護サービスを税金で賄う以上は、今の介護施設でできるサービスはどうしても同じくらいになってしまいます。

もちろん、スーパーマンのような介護スタッフがいると、その人が勤務している時間帯はとても快適になるかも知れません。

しかし、利用者にとってはいるといないで差を感じる故に、不満やストレスの原因にもなり得ます。

組織として快適な介護施設でなければ、本来の意味を成していません。

理想的な介護施設を作りには

多くの介護経験者は、介護のあり方を工夫するでしょう。

いかに利用者と向き合った介護ができるかを課題として考えるはずです。

しかし、例えば現在の介護施設でも、採用できる介護スタッフを3倍にすれば、かなり雰囲気も変わるでしょう。

しかし、現在の介護施設も利用者を一人預かれば約30万円くらいの報酬を受け取ると仮定しましょう。

そこから、住まいと食事、介護サービスを提供し、残った金額がスタッフへの人件費と考えた時に、最終的な施設の儲けをどれくらいに設定するべきでしょうか。

セオリーに従えば、30万円の内、10万円を施設経営者の利益と考えます。

その中には資金繰りなどでできた利息や予備費なども含まれます。

では残り20万円で、部屋代と三食の食事、清掃代や介護サービス費、もちろんスタッフの人件費を賄います。

よく目にする利用者とスタッフの比率を示す指標で、3対1とか2.5対1という数字がありますが、8時間勤務に換算した時のスタッフの配置人数を示したもので、つまり3対1とは利用者3名を8時間当たりスタッフ1名が担当している計算です。

人件費としては利用者1名部の利益で介護士1名分の費用を賄うことになるので、介護士の給料を月額20万円にすることは不可能だと分かるでしょう。

なぜなら、そこまで人件費に割り当てると、部屋代も食事も提供できなくなってしまうからです。

そこで部屋代も食事も介護施設での料金設定を確認すると、介護サービスから除外されていて、実費を利用者側に請求することになっています。

4名で利用する大部屋なら月額費用が安く、個室でしかも広くて設備も整っていればそれだけ部屋代が割増される計算です。

サービス付き高齢者住宅の場合、月額利用料とは、部屋代や光熱費など、介護サービス以外を指すことが多く、つまり介護支援が増えるとトータルでの代金も増していく計算です。

そんな風に逆算すると、介護士が週に5日働いて、月額15万円から20万円という金額はそれなりに意味ある落とし所だと思います。

介護の程度が高い要介護5の利用者とほとんど自立している要支援1の利用者とでは、施設が受けられる報酬も6倍くらい違うので、その意味では運営として考えた時にスタッフの人件費も担当するべき人数も変わってきます。

手間が掛からずに、より報酬を受けられる利用者を受け入れられれば、施設もスタッフもより儲けられるのですが、介護度が低く目が離せない利用者が増えると経営は成り立ちません。

つまり、理想的な介護施設を運営したいなら、より介護報酬が見込めて、大人しい利用者ばかりならスタッフも負担が減ります。

そして、介護サービスをより手厚くする余裕も生まれるでしょう。

しかし、根底から見直すなら、介護保険制度から受ける報酬に頼らない運営方法を見つけることでしょう。

例えば入居者には一時的として300万円を預かり、施設で資産運用を行い資金を増やすのです。

またアパート経営、コインランドリー経営など、手間が掛からずに収益化しやすい事業と並列させるなど、不足するコストを別の方法で回収することも選択肢となります。

我々現役世代にも通ずることとは!?

やはり、限られた税収の中で、きめ細やかな介護をするには、国民からの理解が不可欠です。

しかし子育て世代には彼らの悩みもあって、老人対策ばかりにコストを割り振ることは難しいでしょう。

その中で介護施設の運営は、やり方を絞れば儲かりますが、間口を広げた介護サービスを目指すと、経営は不安定になります。

家族では面倒が見られない高齢者で、自立度合いが高いと、予算も少ないので現場スタッフの負担は増します。

異業種と同じ時給でも、不満を持たずに働けるスタッフは、老人介護が巡り巡って自身の老後支援につながっていることを理解しているからでしょう。

しかし高齢者になると、自己肯定感が強く、融通が利かないことも増えます。

食事を食べてもらうのは利用者のためなのですが、それを支援したい介護士がその利用者から暴力を振るわれることもあります。

「食べないと言ったら食べない!」

そう言われて、「ハイ、そうですか」と言えれば良いのですが、それでも声掛けをし、機嫌を取ってでも食べてもらうように努めるのは、多くが利用者自身が「食べる意義」さえ理解できていないからです。

本当に自立していて、自分で料理を作り食べられるなら、何も施設にくる必要もありません。

しかし、放っておくと白米に梅干しの組み合わせで毎回の食事を済ませてしまうようになるからこそ、介護支援が必要となります。

「自立支援」という大きな命題に、利用者が理解し取り組んでくれれば良いのですが、現実的には自身が作った枠内でしか行動できなくなってしまうのが「加齢」の特徴なので、放置するにもできない事情があります。

寝たきりで、食事は胃ろうで行うというなら、介護士は決められた手順でスケジュール通り作業でできるでしょう。

しかし、まだ足腰が健康で徘徊してしまう人なら、常に居場所に気遣っていないと急に外に飛び出してしまうこともあります。

でも介護報酬の面では必ずしも手間とコストが見合ってはいません。

頑固で言っても従わない相手には、ある意味、彼らの意思を尊重することが介護支援ともいえます。

無理やり強制しても、その人にとっては不快そのままだからです。

ただ介護士として働いていると、「ダメです!」と言わなければいけない決められた指針もあるので、理想と現実の狭間が広くなるほど、現場スタッフの苦労も増します。

衣食住として貯金が必要という考え方よりも、老後も資金繰りできるために運用費を作っておくという考え方は不可欠です。

そして一人の高齢者を支えるとしたら、介護報酬に加えて月額10万円上乗せできたら、スタッフも介護サービスもかなり異なってくるでしょう。

副業で10万円を稼ぐことを考える意味は、より老後を快適に迎えるために考えるべき項目です。

70代でも仕事は続けるべきですし、80代でも続けられる仕事はあるでしょう。

肉体労働100%の仕事よりも、知識や経験を活かして稼ぐ方が高齢者には合っているので、そこも踏まえてしっかりと準備しておけば、老後に対する不安は減ります。