もう一つの仕事があるけれど
3年ぶりにまたフリーに戻ったという感じです。
正直なところ、休職させてもらって、かなり精神的に回復した部分はありました。
ただ、決断のポイントは「今の職場を継続する意味」という部分。
もちろん、これまで未経験で何も分からないところからいろんな経験をさせてもらえたので、感謝したい気持ちはいっぱいあります。
一方で、このまま施設に残ったとして、「そこで何をして行きたいのか?」と自問した時に、明確な決意ができませんでした。
何よりも「介護」は本当に難しい仕事です。
なぜなら「これで十分」という限界も、目標も見いだせないので。
つまり、現状を分析して「今後はこうして行こう」という短いスパンの目標を掲げながら、少しずつ進むことはできます。
そのためには、スタッフの教育も必要ですし、個々の人生設計をどう担保するのかも課題でしょう。
正直なところ、こみち自身は自身の頑張りがどこに向かっているのか分からなくなっていたと思います。
ただ「介護福祉士」という資格を取得したかったので、そこに向けて頑張って来ましたが、施設全体の目指すものや、勤務して施設が老健でありながら、在宅復帰に至らないケースが増えていて、特養との違いや介護サービスの在り方に戸惑ってもいました。
もちろん、大人気ない話をするつもりはありません。
施設を運営するには、空き部屋を作らないようにしなければいけません。
とは言え、「ここは老健なので、在宅復帰に向けた意思確認は必要です」というスタートにしないと、利用者の支援を続けても、ADLが向上しても、その願いが叶わないのだとしたら、介護士としてどう利用者と関わるべきなのかに混乱してしまいます。
「勝手に動かないでください」
「今、トイレに行ったばかりでしょう!」
最近、スタッフのそんな呼び掛けに、疑問を感じていました。
「勝手」とは何か?
スタッフありきの介護をしていることに気づいていないのです。
でもそうしないと、夜勤帯の少人数で回せないと思ってしまうのも分からない話ではありません。
一方で、信頼関係ができると、利用者もスタッフに協力的です。
それによってこみちはとても助けられました。
夜間は、それこそ経験ないですが、夜間学校のような雰囲気で、静かになったステーションにフラッと利用者が現れて、「どうしたの? 眠れないの?」などと日中とは異なる雰囲気で会話をします。
「仕事、楽しい?」
「何で? どうしたの?」
興味深いことですが、利用者の多くはスタッフのちょっとした行動を見ていて、時に核心をつくようなひと言を言い放ったりします。
「別に。何か飲みたいなぁ」
「ホットミルクでも入れようか?」
そんなひと時を過ごしているいと、看護師が巡回に来て、「〇〇さん、どうしたの。早く部屋に戻って!!」と利用者を急かします。
「これ飲んだら…。ねぇ!」
そんなやり取りがあって、その利用者が部屋に戻って行くと、また少しして別の誰かがふらっとやって来ます。
「明日、何曜日?」
「金曜日。もう今日だけどね」
「風呂の用意していないよ」
「大丈夫だよ。午前中のスタッフがするから。心配無し!」
「あっそ。何しているの?」
「日報。みんなの様子を書いている。〇〇さんは元気?」
「エエ、元気じゃないよ。疲れた」
「じゃ寝た方がいいよ。もう(午前)4時だよ」
面白いもので、こみちが各部屋を回っていると、なぜか誰かがフロアに来て待ってくれる。
「〇〇さん、トイレはどう?」
「ああ、行くか!」
生活の場所ではあるけれど、やはり介護施設は家ではない。
どこか不思議な空間なのだ。
でも、こみちは一度、介護士としての立場を脱することに決めた。
正式にはまだ施設の職員だが、事務手続きをするために施設長とも話合い、結論を出した。
何より、新しいスタッフが入職する予定だそうで、今後も施設に明るい笑い声が聞こえることを願うばかりです。