介護支援は利用者のプライベートに踏み込むこと
利用者の生活支援を行うには、何よりもその人のことを知ることが大切です。
実際に、施設のサービスを受ける利用者は、その人ごとに介護記録ファイルが用意されています。
この一冊には、入所に至るまでの経緯はもちろん、家族構成やその方のADL、ケアプラン、医師の診断書、さらに入所後の様子を記録など、介護に必要な情報がまとめられています。
しかし、注意しなければいけないポイントもあります。
人は、環境によってとても変化します。
いい環境であれば生き生きとしますし、心地よくないと表情も少なくなってしまいます。
つまり、ファイルに書かれて内容は、「その時の状況」を示すもので、「今の状況」ではありません。
「自立歩行ができる」と記録されていても、自立するとフラつきがあり歩行が難しいこともあるのです。
ファイルの記録内容を確認しつつ、実際に利用者と接しながら、日常動作をチェックしましょう。
利用者については、ケアプランの他、年齢や家族構成、ADLや介護度などが重要です。
以前の記事にも書きましたが、ケアプランはその方をサポートする計画書なので、介護士なら必ず目を通しましょう。
さらに、重要になるのが利用者のADLと介護度です。
ADLとは日常生活動作とも言われるもので、例えば歩けるとか、座ることができるとか、食事を一人でもできるなどが細かく記入されています。
もちろん、ADLは今後の介護支援によっても変化するものなので、「当時」と「今」、さらに「未来」を分けて考える必要があります。
ケアプランの中には、利用者の意向の他に、家族の意向も記入されていて、利用者と家族の関係を垣間見ることができます。
施設の利用者は、家族を待っています。
しかし、遠方に住んでいるなど、施設を訪れる回数は家族によってさまざまです。
週に数回顔を出す家族がいれば、ひと月に一回ということもあるでしょう。
さらには、施設を使うことに決めた理由もさまざまで、介護度が進んだ場合もあれば、利用者を自宅で介護できない場合もあります。
利用者家族に、施設から連絡を取るのは限られた場合だけで、日常的な原因では滅多に連絡をしません。
「こんな所に居たくない! 早く家族を呼んでくれ!!」
そんな言葉で、家族への連絡を求める利用者も少なくないのです。
それだけに、介護士は利用者の気持ちを落ち着かせる工夫をしています。
お茶を入れるのもそんな工夫の一つですし、利用者の話にしっかりと耳を傾けて真摯に受け応えするのも不可欠です。
介護の講習を受けている際、認知症患者は5分も経てば忘れてしまうと教えられました。
実際にそんな利用者もいるかも知れませんが、こみち自身の経験では認知機能が低下しても「鮮明な記憶」ほど失われないように感じます。
プリンやヨーグルト、果物なども
施設に家族が来る時、利用者のために好きなものを持参します。
デザートや果物の他、ノリの佃煮なども利用者から人気です。
中には着替えを頼んだり、雑誌や小説を持って来てもらうこともあります。
テレビを見るのが好きな利用者もいますが、認知症になると多くはテレビを見なくなり、自室にも置いていません。
その代わり、介護士たちがいるフロアで過ごすことが多く、こみちも認知症の利用者とたわいない会話を愉しみます。
「あの話、秘密にしてね!」
「あの話ですね。ナイショ。誰にも言いませんよ」
何の話なのかは重要では無さそうです。だからこそ、「秘密」を尊重して話を合わせました。
「掃除が大変だったのよ…」
「それは大変でしたね。お疲れ様でした。お茶でもいかがですか?」
自室に関しては、専属の清掃スタッフがいるので、掃除をすることはありません。
しかし、利用者が大変だったというのですから、それに合わせた会話が適しています。
また、認知症の利用者と話す中で、特定のキーワードが出てくることもあります。
「近所の魚屋さん」とか、「学校の〇〇先生」とか、施設とは異なる場所での記憶です。
こみちは家族が訪れた際に、キーワードについて確認したりします。
すると、利用者が見ている世界観をより具体的に共有できるからです。
そんな時にも利用者の家族の存在が大切で、介護用のファイルにも記載されていない内容が補えたりします。
「嗚呼、あの魚屋さん!? サンマが美味しいですよね!」
そう話した時の利用者の反応がとても面白かったりします。
「そうそう、よく買ったのよ…。子どもたちが好きでねぇ」
いろいろ情報を得て日頃の介護に活かせていく
介護ではアセスメントと呼びますが、利用者のことを観察してその特徴を掴むようにしています。
介護用ファイルも最初は参考になりますが、2週間くらいすると利用者の個性や性格的なことはだいたい把握できるようになります。
声掛けの方法や会話の内容など、いくつもあるパターンの中からベストなものを選んで使います。
飲み物や食べ物に関するこだわりに注意し、食べやすさについても確認をします。
利用者に対して真摯に対応していると、家族の反応もそれに伴ってきます。
以前は何かと素っ気ない態度だった家族が、「お世話なっています」と自然に挨拶してくれるようになったりします。
「利用者の〇〇さん、納豆を食べたいなぁと言っていたんですよ」
ちょっとした情報ですが、利用者の好みを家族に伝えたりもしています。
「次回、買ってきます」
「すいません。喜んでくれると思います」
そんなやり取りが重なれば、大切な人を施設に預けた家族としても安心してもらえるでしょう。
特に介護士の立場でできることばかりではないので、利用者家族も巻き込んで支援の輪を広げる工夫も必要です。
もちろん、過度に要求するのは家族にも負担ですから、程よい距離感を保ちながら利用者と家族の距離も大切にしたいものです。