介護施設への提案

 介護施設の目標

介護士と働いていた頃、常に感じていたのは仕事量のアンバランスです。

その原因はいくつかありますが、一つは「介護スキルの差」、もう一つは「介護への理解」です。

未経験者はその両方が「0」から始まります。

基本的に「介護スキル」では移動や移乗を皮切りに、トイレ誘導、介助、食事や入浴など日常生活に関わることが当面の目標でしょう。

ある意味、ここまでの作業が安全にこなせれば、介護スタッフとして長く働けるはずです。

一方で「介護への理解」では、「利用者の自立支援」の意味や目的を自分なりに理解することから始まります。

次の目標は「介護福祉士」の試験内容を確認し、なぜそのような出題が想定されているのかを分析することでしょう。

すると、「自立支援」も言葉としての理解ではなく、制度や行政との関係、地域の役割などなどへも理解が進み、その上で「介護施設」や「介護スタッフ」の役目を見直せます。

思うに、介護業界に関わる人を未経験から3年間でそこまで育成できれば、介護施設の運営は飛躍的に向上し、何より柔軟なサービスへ対応可能です。

介護施設の課題

多くの介護施設では、日常の割り当てられた作業があります。

もちろん、その内容をすべてのスタッフが行えるとは限りません。

つまり、難易度の高い作業ほど限られたスタッフに依存することになり、どうしても作業量のアンバランスが発生します。

そこで、先に紹介してような「目標」に向けて人材育成がどこまで達成できるかが問われます。

しかし、残念ながら依存しなければいけないはずのスタッフでさえ、必ずしも「介護スキル」や「介護への理解」が十分ではないということもあります。

そんなスタッフが中心となった介護現場では、行政が求める「介護」にはなりませんし、利用者が求める「介護」にもなりません。

ところが、人材不足に悩む施設ほど、根本的な育成に時間を割けません。

つまり、そんな施設で働き始めると、その施設特有の介護を「介護」として覚えてしまう危険性もあります。

根本的な原因

介護業界の多くの施設は、介護保険制度に則り報酬を受けてスタッフへと還元しています。

施設それぞれがどのようなサービスを行おうとも、得られる報酬は条件が同じなら一律です。

そうなると考え方として「更なる理想的な介護」へと力を注ぐよりも、「いかに効率的な介護」に達するかを目指してしまいます。

具体的には、一人のベテラン介護士がいると、20名くらいの利用者を一人で賄ってしまいます。

もちろん、そのスタッフは大変ですし、動いてくれない他のスタッフを見て面白いとは思いません。

でも、動けないスタッフを育成するよりも、できるスタッフが回してくれた方が施設としては効率的なのです。

その結果、できるスタッフや理想を求めるスタッフほど、現状の介護に疑問や不満を感じるでしょう。

そのような流れは、介護業界の発展を妨げてしまうのです。

老後への理解

介護施設で実際に働いてみて、様々な生活上の支援方法が身につきます。

しかしながら、「老後への理解」が進むとは限りません。

ここでいう「老後への理解」とは、「働けなくなった自分」を想像することです。

人によっては「なぜ生きているのか?」と考えるかもしれません。別の人は依存することに慣れてしまうでしょう。

それだけ意識に開きがあるのですから、施設運営が容易ではないことも理解できます。

また、スタッフが支援者ではなく、世話焼き人になってしまう原因です。

現役世代の時から、自分が働けなくなり、誰かの世話になるしかなくなることを想像した時に、「今をどう生きるのか?」も決まります。

高い報酬を得ている仕事をしていて、老後も十分な年金を受けられる人だったとしても、それだけで本当に「老後は安心」でしょうか。

何より、介護業界が今のような課題を克服できないままということは、真摯に対応するスタッフに当たるか否かによって、何もできなくなってしまった自分の幸せも変化するでしょう。

つまり、動ける時にしっかりと動いておくことが、自分に選択できることなのです。

1日でも長く健康でいなければ、誰かの考えに依存するしかなくなります。