嫁が切れた!

 言葉には気をつけていたつもりだったけれど

先に寝室に戻ったこみちは、いつものようにiPad を開いて文字を打ち込んでいた。

すると、後から嫁が来て、「あれってずるいんじゃないの?」と吹っ掛けて来た。

「あれ」とは、夕飯の食器洗いのことだ。

最近、薬の見過ぎもあって、父親は一日中目眩はすると言っている。

昼間に風呂を沸かしたというが、浴槽の半分も入っていなかったらしく、母親が不思議がっていた。

そんな時に嫁が「もしかして沸かし方を忘れてしまったのでは?」と言った。

そう「行為失効」である。

おかしなことは他にもあって、身につけていた衣類全てを大きな洗面器に浸していたそうだ。

風呂に入るにあたり、脱いだ衣類なのだが、なぜに洗面器だったのか。

普段なら洗濯カゴに入れる。

「もしかして、お漏らし?」

そう、父親は最近、トイレをもの凄く汚してしまうことがある。

便座カバーがびしょ濡れになって、それをそのまま放置してしまうのだからかなりのものだ。

濡らしてしまうのもすごいが、そのままにすれば誰かに気づかれる。

そこに考えが及ばないことに心配してしまう。

正直、仕事から帰って、テレビをごろ寝して観ている父親がいて、ため息が出ない日はない。

母親も嫁も「認知だよ」で終わらせる。

何か変われないのか。

こみちは仕方ないで終わらせられない。

だって、何も役に立とうとしてくれない父親を「無価値」どころか「有害」には思いたくない。

あれもこれもできないで終わらせたくないのだ。

リビングで結論の出ない家族会議を毎晩1時間も2時間も掛けて何の意味があるだろうか。

だって父親はできない人。

じゃあ、母親か、嫁か、こみちが被る。

またその話だ。

ある件で父が自分ですると家族に啖呵を切った。

だからこそ、その場を引いた。

ところが結局は何できなくて、今日もある関係者に電話を入れたのはこみちだ。

でも父親は何も知らない。

そうやって周りでできないようにしているのだ。

こみちが嫌だと断った。

理由は啖呵を切った父親だからだ。

しかし母親も嫁も、父親をかばう。

それ納得できなくて寝室に戻った。

ところが、嫁にすれば納得できないらしい。

「あれだけ啖呵切っておいて」

いつもそうだ。

なんだかんだ父親中心に母親がしたがる。

別にそうしたいなら、母親がすればいい。

でも、こみちに回して来る。

それでこみちも折れて電話はした。

だから早々と寝室に来て。

それが嫁は気に入らないらしい。

寝室でも、こみちと嫁の言い合いが続く。

何でも上から目線で。

嫁がそう言う。

でもこみちは肝心な時にいつもそう逃げる嫁の態度が嫌いだ。

逆にイラッとさせる。

そう言い返したら、寝室のドアを思い切り閉めて嫁が出て行った。

実は叔母の件や父親の件があって以降、実は嫁との関係は良くない。

まだ口には出ていないが、離婚にも発展しかねないほど嫁と笑っていない気がする。

今も寝室に一人で、ベッドに入って照明も落とした。

きっと嫁は今夜はもう寝室に戻らないだろう。

ケンカ云々というよりも、一緒に生きる意味を見失ってしまうと、もう一緒に暮らしている意味さえなくなってしまう。

そんなところにまでみんあの気持ちが追い詰められていた。

夜中にでも戻って来るだろうか。

それとも嫁は自分を貫いてしまうだろうか。

そのあたりから、熟年離婚って起こるのだろう。