施設に入らないことを選んだ叔母だが…
入所する施設もほぼ決まった状況だったが、肝心な叔母の気持ちは頑なで、自宅から出ないと言い出した。
地域包括支援センターのスタッフとの事前相談でも、入院先の病院からそのまま施設へと移動する話になっていた。
でも、結果的には「叔母様は自宅に戻りました」との連絡を受けて、叔母の家を訪ねたのは年末の話だ。
病院で見舞いに訪れた時よりも元気そうだし、表情も随分と柔らかくなって見えた。
とは言え、叔母の姿を見て、そのまま以前のように一人暮らしを続けるのは難しく、実際に行政の担当者にも自宅訪問までしてもらい客観的生活を継続するのは困難だと判断してもらった。
その上で、今の叔母が安心して暮らせる施設を紹介してもらったという話をこみちが聞いたのは叔母が自宅に戻り顔を見に行った時のことで、地域包括支援センターのスタッフから詳細を教えてもらった。
結果的には、動かない父親に打診したものの、「ウチでは対応しません」との返事で、手続き上必要なサインについても全面的拒否したという。
そんなこともあって、施設入所の話も流れ、行き場が無くなって自宅へと戻ったということだ。
そんな慌しい中で叔母は以前の住まい戻り、生活を始めたところだったが、年始に入り連絡しても電話に出てくれないことが増え、今日になって持っているはずの携帯電話の電源も入っていないという。
不運なことに地域包括支援センターのスタッフも今日はお休みで、「それで、いつから連絡とれていないの?」と両親に聞くと、母親が「今日」と父親を見て代わりに答えた。
父親はテレビを観たまま何も言おうといない。
数日前にも家族会議をした時に、父親は一人でブチ切れてしまい家から飛び出してしまったほどだ。
母親にしても、叔母の件は父親の担当と思っているらしく、どう見ても動かない父親の態度を知ってからもスタンスを変えることはない。
「地域包括支援センターに連絡したのかなぁ」
心配そうに言ったのは妻で、少し拒否反応が出てしまうこみちは、そんな両親を見てまた心が動揺していた。
こみち夫婦が自室に戻ってからも、叔母の件で話すことはタブーになった。
なぜならどんなに夫婦で相談しても、父親たちに変化は無く、ダンマリを決め込んでいるからだ。
現状を言えば、叔母が元気で暮らしてくれていることを願うしかない。
数日間連絡が取れていない状況でも、心配していないのか、気になっても自分から動けないのか分からないが、父親が主導的に何かする様子は全くない。
普通に夕飯を食べて、風呂にも入り、そしてテレビの前を陣取り好きな番組を眠くなるまで観続ける。
「妹はちゃんとご飯を食べただろうか?」
そんなことを思っているのかどうかも分からないが、いつもと何も変わった様子はない。
もしも何かトラブルがあれば、また病院に搬送されないとも限らない。
そうなると、また入院費の負担が迫られる。
身銭を出したくないみたいで、自分のものは買って来るのに、父親はこの場に及んでも決断を先延ばしにしている。
それこそ、父親の態度を見ていると、叔母のことを見捨てたとしか思えない。
自分がさらに老いた時、叔母にした同じことをされても良いのだろうか。
こみちも決して優しい人ではないが、実の妹のことが心配ではない気持ちが分からない。
その年齢になってみないと父親の気持ちに寄り添えないのかもしれないが、理由や希望くらい説明してくれても良いと思う。
「どうなの? どうするの?」
そう尋ねる度に、迷惑そうな声で「あゝ」と言って、そのままテレビだけを見つめている。
もしも何も言わなければ、その先も何も説明はない。
「どうなの?」
「あゝ?」
その姿を見る度に、こみちの心はストレスを感じ、言うのを考えてしまう。
今日は何も言わずに部屋に戻ってきた。
父親はきっと何もしないまま、地域包括支援センターのスタッフや行政の職員から連絡でも来ない限り、動こうとはしないだろう。