高額な有料老人ホームでも提供できないサービスとは何か?

 なぜ、有料老人ホームは高額なのか?

入居金1億円超えもある介護付き有料老人ホームの世界ですが、改めてその内訳に目を向けると、有料老人ホームの本質が見えてきます。

こみちは現役の介護士ですが、勤務中にできないことや限界を感じるポイントがあって、その多くはスタッフ不足や連携不足などから生じるサービスの制限です。

言い換えれば、介護サービスに上限を設けない施設運営が可能な有料老人ホームでは、その「限界」までもサポートですでしょう。

介護サービスの本質

介護サービスを必要とする利用者は、医療的、精神的、肉体的など様々な理由から支援を求めています。

つまり、「これだけで良い」というサービスは存在せず、多方面の知識や経験、技術力を施設として系統的に提供できるかがポイントになってきます。

しかし、実際に働くスタッフの立場になると、いくら介護現場で求められるからと言っても、勤務外に多くのレポートや勉強を強いられれば、それは彼らの生活を困窮させることにもなるでしょう。

中には月給〇〇円以上という金額を条件に困難を乗り越えられる人もいるかもしれませんが、現実的な話をするとこれまで見てきた介護士の中で「お金」を理由にした人は個人的に見たことがありません。

もちろん、稼げるということも大切ですし、介護士だからすべて奉仕とはいきません。

それだけに介護士として働く人の心理は異業種に比べて少し独特で、時に「してあげている」という感覚が働くモチベーション以上に高まってしまうこともあり得ます。

不思議なもので、「してあげている」という感情は、利用者にも伝わります。

そして、利用者の反応が冴えない時に「折角」という押し付けがさらにスタッフとの距離を作ってしまうのです。

言い換えれば、「介護とは何か?」を本気で学ぼうとする場合、これまで生きてきた人生観を根本的に見直す必要があり、中高年の方であれば両親や配偶者、又は自分自身の健康などが変化したことをきっかけにして考えることができるでしょう。

しかし、これがまだ30代までの若い世代であるなら、人生観を見直すきっかけはそうそうなく、むしろ自身の人生観を築いている段階とも言えます。

つまり、「介護とはこうだ!」と決めつけてしまえば、それが彼らの介護に対する理解ともなり得るので、その意味では施設として「介護」を正しく認識し伝える難しさがあります。

なぜ有料老人ホームという形態なのか?

有料老人ホームの月額利用料金が30万円だとして、又入居金として1000万円が必要というケースを考えた時に、在宅介護を手厚く行うことはできないでしょうか。

もちろん、一人の介護スタッフでそのすべてを補うのは能力的にも難しいことですが、入浴の日や必要な介護食はそれぞれの専門スタッフを活用したりして、チーム連携をしながら月額30万円ではなく40万円で賄えないかということです。

住宅費が掛からないなどの条件を踏まえれば、有料老人ホームで問題となる高額な住居費を0円にできますし、その分だけ個別のサービスに割り当てることで上質な介護サービスを実現するのです。

しかし、どのような切り口から介護サービスの話を始めても、行き着くのは「スタッフ育成の難しさ」だったりします。

それこそ、有料老人ホームでも多くの割合を占める「住宅費」は、住んでいる限り支払う料金で、施設としては箱を作れば収益として目算しやすい項目です。

というのも、割と高額な有料老人ホームでも月額の食事代が6万円くらいで、この金額はある程度の収入がある一般の施設を利用した時の食事代と大きく変わりません。

つまり、有料老人ホームだからと言って、一般的な介護施設以上に手の込んだ食事が提供されるとは限らず、むしろそれは各施設のスタッフによって変化する部分とも言えます。

こみちは富裕層の食事を知りませんが、例えば料理上手な料理人を招き入れることができたなら、金額では補えない以上の「食べる喜び」と提供できることは間違いありません。

そんな風に考えると、在宅介護だから難しいのではなく、施設介護とすることである程度の上限を決め、そこから有料老人ホームとして魅力や存在意義を見つける手法で成り立っているのかもしれません。

施設介護の限界と高齢者介護の問題点

現役介護士のこみちが思うのは、施設の設備よりもスタッフの質で介護は変わるということです。

その効率を向上させるために施設の設備が必要ですが、設備さえあれば介護サービスを提供できるというものではありません。

それだけに施設にとってスタッフの育成は重要ですし、スタッフにすれば介護士として頑張る理由やモチベーションも又不可欠です。

介護業界を横断的に提供するサービスを

例えば、個々の介護施設では補えない様なサービスを一括して担うセクションがあってもいいでしょう。

具体的には、都市部の施設の利用者向けに、家族同伴でも参加可能な温泉旅を提供するという企画です。

通常の旅行費が一泊二日で5万円だとして、それが10万円で提供できるとなった時に、高額と感じるでしょうか。

介護現場を知っている人で有れば、そもそも利用者を旅行に連れ出すには様々な条件が伴い、それを家族だけでカバーするのは難しいでしょう。

そこで、専任のスタッフが同行して、家族での思い出を作るためにひと役買って出るようなイベントを開催するのです。

もちろん、観光地をめぐるということも可能ですし、企画次第でイベントは無限に広がります。

実際、こみちが担当した利用者の中には、「行きつけの寿司屋に行こう」とか、「生まれた故郷を見に行こう」というような話を何度もしてくれて、でも施設介護の限界とコロナ禍もあって叶えることはできませんでした。

「介護施設として何ができるか」と考えた時には、当たり前のアイデアしか浮かびません。

しかし、「高齢者の生き方」という立場で考えると、家族と思い出の場所にもう一度行ってみたいという気持ちにもなるでしょう。