老夫婦との暮らし「在宅介護の布石を目指して」

 異なる価値観

休みの日、以前までのこみち夫婦なら、少し遅くまで寝ていることが多くありました。

とは言え、重ねた年齢や生活習慣もあって、若い頃のように午前10時まで一回も目が覚めないということはありません。

だいたいは、午前6時くらいに目が覚めてトイレに行き、キッチンでコーヒーを入れてまた寝室に戻って来るというのが定番です。

こみち夫婦は共働きで、定年退職した父親は割と家にいて、社交的な母親は外に出るのが苦ではなく、今でも仕事を持って働いています。

母親の仕事が忙しい時、こみち夫婦も時間的に都合が合わない時、多くは惣菜ものやスーパーの弁当が増えます。

以前にも少し紹介しましたが、こみちは料理することがあまり苦ではありません。

学生時代にはファミレスの厨房で働いていたこともあって、自分が食べたいものくらいは作れるレベルです。

そんなこともあって、朝、こみちが家にいる時は朝食を作るのがいつに間にか日課となりました。

以前は、ライターの仕事を掛け持ちしていたので、早朝に起きて仕事に出るまで文章を書いていたりもしていました。

家で仕事をしていると、妻は理解してくれても両親は「働いていない」と思っているみたいで、「文章を書く」ことで収益を得ている仕事に関心がありません。

むしろ、朝食を準備し、起きたらすぐに食べられることを望んでいて、時にみんなが休みの朝、寝坊できると思い、遅めにキッチンに行くと不機嫌な母親がいました。

昨夜の洗い終えた食器を棚に戻しながら、低い声で「おはよう」と言います。

こみちは何だかとても責められているような気持ちで、「おはよう」と返します。

妻の分も一緒にコーヒーを作りながら、「何か作ろうか?」とこみちが訊きます。

「いいよ。作るから」と答える母親の声は、相変わらず不満そうです。

とは言え、最近の母親はずいぶんと料理が下手になりました。

ーー塩分の取りすぎ、油ものは健康に良くない。

そんなテレビなどから耳にした情報が刷り込まれ、何か作る時も塩っけも油分も不足した料理を作ります。

そして、市販の揚げ物はなぜか容認されていて、食卓には頻繁に登場します。

実はこみち、一人暮らししていた時からスーパーの出来合いものをほとんど買いません。

夫婦二人が一回で食べる料理なら、それほど手間ではありませんし、自分仕様にレイアウトされたキッチンなので、何かしたい時に勝手も分かります。

しかし、最近は母親もキッチンに立つので、いつに間にか調味料の位置や冷蔵庫の配置が変わっていて、今は父親が好物のカワハギの乾物が冷蔵庫の棚を占領しています。

「なんで5パックもいるの?」

「だってすぐに無くなるから」

「多すぎない?」

「お父さんに言えば?」

これは親子でよくある会話ですが、母親は時々、夫婦二人のことは夫婦で決めると言い、時に父親と自分は別々だと言います。

「じゃあ言っていいんだね!?」

「でもそれがお父さんの楽しいなんだから…」

無趣味でテレビが唯一の生き甲斐になっている父親は、料理もしなければ、せいぜい自分でインスタントコーヒーを作るくらい。

カップ麺にお湯を注ぐこともしないくらいです。

なので母親が家を空ける時に、父親が食べられるお菓子や小魚などがキッチン棚や冷蔵庫に置かれるようになりました。

何より、冷蔵庫にはスーパーの出来合い物が何パックも置かれて、食べきれないとこみち夫婦も一緒になって片します。

「これ、美味しくないよ!」

「すぐ、そうやって贅沢言う」

こみちが文句を言えば、母親が言い返します。

嫁はあまり口出ししませんし、父親は満腹になっていればそんないざこざなど知らん顔です。

これまでにも、父親に簡単な料理を覚えてもらおうと提案しましたが、無精な父親はそれを嫌がり、母親も「男性がキ台所に立つには」と言い出します。

でもこみちがすることに配慮はありません。

これは介護の仕事でも言えるのですが、洗い物や料理をし慣れているから任せていいと言うのは間違えた考え方です。

なぜなら、その仕事をすると、残りを他の人がカバーしてくれるなら分かりますが、家でも職場でも、こみちがするとみんなが団らんすると言うのが日常的になっているからです。

そんな風に言うと、「こみちの心が狭い」を思う人もいるでしょう。

しかし、歩み寄りは大切で、こみちにはそれぞれの理想を死守するために、こみちに押し付けていると感じます。

仕事なら下手でも練習するべきですし、家事であるなら方法変えたり、希望を減らさないと負担ばかり増えてしまいます。

在宅介護では、介護される人がわがままを言いやすい。

施設での利用者を見ると皆さん気を遣っているのが分かるので、在宅ならではの利点とも言えます。

しかし、多くの人は介護現場を知らずに、在宅介護を始めるでしょうから、家族が潰れないように継続できる共同生活にしなければいけません。

それにしても、価値観が違うので、夫婦で食べたい物も店では食べられないし、家でも食べ難く、結局は両親分に何か買って、四人でも食べられるものになってしまいます。

生クリーム嫌いな母親、なまものが嫌いな父親。

四人で食べるにも、ケーキや寿司をポンと買うことができないのは、とても面倒に感じます。