理想的な老健を作るために…
介護施設の多くは、介護保険制度の介護報酬を当てにして経営しています。
そのような経営で起こってしまうのが、「利益」ありきの運営方法です。
例えば、電気屋さんで値切る場合、「少し値切ってくれませんか?」というのが初歩だとしたら、中級者はネット通販サイトの最安値を出して、「この価格はできませんか?」と決済権限のある店長を相手に交渉するでしょう。
しかし、上級者になるとどこで「得をするか?」を考えます。
例えば、同じ価格で購入したとしても、より手厚い保証期間やポイントの上乗せに目をつけるかもしれません。
また、1個ではなく、100個とか500個まとめて買うと伝えるかもしれません。
というのも、販売店の立場になれば、原価割れして販売はできません。
一般的には、営業コストを乗せることは避けられないでしょう。
しかし、例えば1万個まとめて購入してくれるとなると、販売店も考え方が変わります。
つまり、1個あたりの利益を計算するのではなく、1万個まとめてどれだけ利益になるかで考えます。
それはつまり、営業コストも最小限にできるので、結果的に1個当たりの価格は、それなりに底値となっているでしょう。
ここで言いたいことは、個人ユーザーとしてできることと、ビジネスとして利益を出す時は手法が全く異なるということ。
思うに介護保険制度に沿った経営は、ここでいう個人ユーザーの手法なのです。
これでは目的に対して早く限界を迎えてしまいます。
先例では「値切り」ですが、介護施設では「効率的な経営」が相当します。
老健施設で多い要望とは?
それはつまり「在宅復帰」に尽きるでしょう。
その時に、意外に思うかもしれませんが、家族が自宅で引き取ることを望んでいるとは限りません。
つまり、受け入れた利用者をどんなにリハビリしても、家族が受け入れを拒めば、在宅復帰はできないのです。
思うに、そもそも施設に預けたいのが目的の受け入れは最初から施設として拒めばなければいけません。
そうでないと、ずるずると施設にいる期間が延びてしまい、老健の「特養化」が進みます。
実際、こみちの施設でも3年以上も継続して入所している利用者の割合が高くなっています。
だからこそ利用者の「目的」を絞り込む!
実際に介護現場に立つと、8割の仕事でもノルマとしてはかなりの達成率です。
それが人によっては5割でも十分だと思うかもしれません。
でも本当に利用者に効果が現れるのは、10割の時だけです。
だとすれば、8割でも5割でも、利用者は段々とADLを低下させていき、言うならその減少度合いに差があるだけです。
だからこそ、10割にどう到達するかを介護施設は考えなければいけません。
思うに、あれこそできる何でも屋ほど器用貧乏になりやすく、一点主義くらいのつもりであれこそとは手を出さないスタイルに徹するべきなのです。
事実、老健が在宅復帰を支援する施設ですが、通所型のパワーリハビリを実践している施設の方がより絞り込みに特化しています。
つまり、「在宅復帰」という最終目的に対して、そこに向けた支援策を考える方が、より効率的なのは頷けることでしょう。
認知症からパーキンソン、寝たきりに半身不随と、全く異なる状況の利用者を一斉に預かって、その個々に応じた支援ができるのならいいですが、それこそ8割や5割となってしまうと、遅かれ早かれ在宅復帰が遠退く支援に終わってしまいます。
介護士の育成にしても、ありとあらゆる技術を無作為に学ばせても、使える介護士には成長しません。
そうだとしたら、できる限り同じような問題点を抱えた利用者を預かることで、高い実績に裏付けされたサービスが提供できるはずです。
その意味では、こみちの勤務する老健の多様さに現場スタッフが追いついていないのでしょう。
プロとしてこだわるポイント
例えば、「座位」に対する介護施設の支援で、利用者の快適さは異なります。
この「快適さ」は、空調による快適さとは異なり、上質な食事によって得られるものとも違います。
我々でも、寝具や椅子を健康的な側面から選んでいる人はまだまだ少ないでしょう。
生活に密接なはずの椅子やテーブルを、身長や座り方の癖を無視して選んでしまうと、当然ですが腰などに痛みを感じたりします。
まして、一日中車椅子に座らせている施設などは、介護として論外でしょう。
でも、きっとそれを当たり前に思っていた人は、違和感に疎く、「この支援策ではいけない」と感じ難いタイプです。
そんな介護士は、しっかりと支援方法を具体的に指示されなければ、5割や8割の介護を10割と思い込んでしまいます。
だからこそ、10割を実践できる介護士を作ることが、施設側の当面の課題です。
いきなり全部ではなく、ポイント別にひとつずつ、10割にこだわることで、行く行くはいろんな場面でも10割になる介護士が誕生します。