介護業界における「やりがい」とは?
ビジネスの基本型は、「誰かに役立つこと」を仕事にする。
では、介護業界の「やりがい」とは何だろう。
大きな流れとして、加齢により人は段々と心身ともに弱ってしまう。
それはどんな人も避けることができない使命でしょう。
つまり、「生まれたら人は皆、いつかはこの世を去る」ということ。
そこで、介護業界が担っているのは、自宅で自分らしく暮らしていた人が、何か心身の衰弱によって不便を感じた時にサポートすることを生業としている。
介護保険制度になって、繰り返し研修でも指導されるのが「自立支援」「個人の尊重」ということ。
つまり、「サポートしてあげる」ではなく「サポートさせてもらう」という意識改革が行われた。
しかし残念ながら、経験豊富なベテラン介護士に限って「してあげる」感覚が抜けていません。
利用者に「ありがとう」という言葉を言わせてしまうのです。
勘違いする人は、「いいですよ!」と少し得意げに答えるかもしれんが、利用者の本音は「単純な介護士だ」という評価でしょう。
それでも自分たちの世話をしてくれるので、利用者が下手に出ているだけで、それを勘違いし続けるベテラン介護ほど痛い存在はいません。
つまり、「介護させてもらう」というスタンスで、介護士は利用者の意思決定を最大限に尊重しながら仕事を行います。
感覚としては、例えば「オムツ交換してあげた」ではなく「交換させてもらえた」なので、作業中の声掛けや身体の負担が少ない手順を実行するのは「いい介護士」ではなく「最低限のサービス」を提供しているに過ぎません。
ある意味、介護業界に課せられた使命はそれほど壮大なものなのです。
しかし、現実的な話をすると、時間給では一般のアルバイトと待遇面では変わりません。
介護業界のやりがいを本当に理解したら、アルバイト同等の待遇で厳しいノルマに答えるのはそれなりの覚悟が必要です。
介護士はなぜ病むのか?
まず、介護施設の方針、介護現場の方針、個別の介護士同士にある方針が異なります。
そもそも、介護業界のやりがいさえ理解していない介護士が先輩にいると、それだけで価値観や方針が180度変わってしまいます。
「利用者の言葉に耳を傾けろ」と施設全体でスローガンを抱えても、「そんなことまでやってられない」と考える先輩がいると、もう現場は混乱し、どこか曖昧な仕事になっていきます。
全体で100個の仕事を5人の介護士が分担する時、各20個ずつ担当できれば問題は起こりません。
しかし、中には「リーダーをする!」という先輩が現れ、後輩の4人で100個を分担する羽目になります。
さらに、全ての介護士が同じスキルではないので、25個ずつに分けたくても、それができないこともあります。
しかも、1人目が50個、2人目が30個、3人目が15個、そして4人目が5個。リーダー役は0個という分配になることも。
そして報酬額ではリーダーが時給1500円。2人目が1300円。1人目と3人目、4人目が同額の1000円。
1人目の介護士にとって「やりがい」ってなんでしょうか。
さらに面白いのは、最終的な分配では先に紹介したようなものでも、ある担当に限れば3人目が大半の業務を担ったように見えたりします。
そして、アピールが上手い介護士ほど、トータルでは15個でも、一番仕事をしたという態度で、他の介護士がカバーしていることに目を向けません。
また、内部の派閥によっては、少数派がやり込められてしまうことも起こります。
「指示したからやりやすかったでしょう!?」
そんなことを本気で言うベテラン介護士は存在します。
中高年にとっての「介護職員」という仕事
これまで数年間、介護施設で働いて思うのは、地方都市に多い中小企業の社長が抱える問題と似ています。
大企業の本社勤務ができる人は、その大半が名の通った大学の出身者でしょう。
つまり、共通した知識を有し、そ個に優劣をつけることができ、仕事上での指示に対してもその根拠を理解できます。
しかし、これが可能になるのは、組織としてかなり優秀だからで、一般企業ではそれを目指した運営に日々知恵とアイデア、工夫を凝らしているのが実情です。
つまり、大手企業を退社し、中小企業に身を置いて感じるのは「上司からの指示に根拠が見えない」というジレンマです。
それよりも数段効率的な方法があるのに、でもそうではなく上司の指示通りにしなければいけないのはなぜか。
そんな些細なことで度々、違和感を感じてしまいます。
中には「こんな方法ではいけませんか?」とか、「その指示ってどんな理由からですか?」と聞いてしまった時には、周囲は凍りつくことでしょう。
介護業界でも最大手と言える「Benesse」などではどうなのかわかりませんが、かなり有名な介護系大手であっても、職員の声を聴くと中小企業特有の現象が起こっています。
まして、地方都市にある中小規模の介護施設では、どうしても避けられない問題となっているでしょう。
特に「してあげている」系の意識で働く介護士が一定数を占めていると、残りが改善に前向きでも現場の雰囲気は変えられません。
なぜなら、「私がリーダー役ね!」と言われて、納得できないからです。
リーダー気取りの介護士を支えるために、必死で働くのがバカらしく思えてしまうでしょう。
でもリーダー気取りの介護士の内情を補足するなら、「気取っている」つもりはなかったりします。
ただ、組織づくりの経験もないし、どんな組織が必要なのかも知らないので、自分が中心になって指示をすれば現場が回ると思っているのです。
「現場が回る」とは、「利用者にしてあげている」という意識の延長にある考え方。
つまり、仮にそれで回ったとしても、利用者も不快なら他に介護士も不満です。
だからこそ、ゆっくりではありますが、介護業界も底上げが始まったのです。
ただ、大手企業のような組織化には、まだまだ遠く、これまで働いて来た中高年ほど、働いて違和感があるかもしれません。
「郷に入れば郷に従え」ではありませんが、全く意識を変えて働くくらいの覚悟が必要です。