介護現場でまかり通る「スタッフの言い分」

どこに行ったのか「個人の尊重」や「自立支援」

今、勤務している介護施設には、いくつかの派閥があって、じゃんけんのような関係が浸透しています。

とても乱暴な言い方をすれば、「命を守る」ことができれば良いという方針を掲げる一派と、時間を見つけてチョコチョコと仕事をする一派、少し構成されるスタッフの年齢が高い一派とか共存しています。

シフトによっては、どれかの一派が大多数になることがあって、少数派になると無言で役割をこなすという感じです。

こみちはサラリーマン時代から「派閥」というものが苦手で、だからどこの派閥なのかも気にせずに、話しやすいスタッフなら話をするというスタンスです。

ただ、正直な話、そんな風に派閥化が進んでしまう理由は、施設の管理方針や業務姿勢に対する考え方をスタッフと共有できていないことが挙げられます。

ある利用者の座っているテーブルに「おしぼり」を配る時、見てる前でポンと投げてしまう行為は、どんなに仕事ができるとしても許されるものではありません。

それは、「足で扉を閉めること」にも似ていて、「閉まれば良い」のか「閉め方にもマナーがある」のかという話です。

中高年になって介護士として働き始めて、例えばホテルマンが行う「接客術」を身につけることができたら、施設の品格が上がるはずです。

しかし、残念な話をすると、施設の品格が上がってもすぐに収益をアップさせることはできません。

つまり、介護士が自身の報酬をあげる方法として、「接客術を習得すること」はいくつかの条件があってこそ成立します。

例えば、こみちが勤務している介護施設では、前例的に評価の対象とはなりません。

もっと言えば、おしぼりを投げて配ることをするスタッフに「業務指導」を行うと、そのスタッフが辞職を願い出るかもしれません。

そうなった時に、代わりのスタッフがいるのなら、施設も理想とするサービスを追求できるでしょう。

しかしながら介護施設のスタッフ不足は深刻で、それは早朝から遅番、さらに夜勤と自身のプライベートを犠牲にして勤務しなければいけない現実があります。

しかも、まだまだその労働に対する報酬は異業種並みとは言えず、若い世代であれば介護業界でどう生き残るのかを考えるべきだと思います。

中高年の場合には、年齢や経歴に関係なく採用される業界ということで、そのメリットを活かした働き方が理想的でしょう。

つまりは、利用者のことも考えるけれど、スタッフ同士の兼ね合いにも配慮して、「どこにでもいる介護士」くらいでいられれば、最も居心地のいい働き方が手に入ります。

「おしぼり」を投げて配るスタッフにも言い分がある!?

最近、物事の良し悪しも、前提条件次第ではないかと感じます。

つまりおしぼりを投げて配るスタッフを否定するのは簡単です。

しかし、夜勤を担ってくれる人材は、簡単には集まりません。

例えば派遣スタッフにお願いすれば、施設として支払い金額は派遣会社の利益も含まれますから、倍とは言わないまでもそれなりの金額です。

ではその損失を惜しむなら、スタッフには辞められては困ります。

少しくらいの行為には、暗黙の了解ができてしまうのです。

日中、利用者が介護士に何か訴えて来た時、本来の自立支援を考えれば、耳を傾けるのが当然の行為です。

しかし、「忙しいんだけど」と言って、お願い事を言わせないようにする行為が、やたら目につきます。

もしも自分が年を重ねて今の利用者と同じ立場になった時に、そんな風にあしらわれてどう感じるでしょうか。

そう考えると、いきなり「忙しい」はないはずです。

しかし、そんな風に予防線を張るスタッフにも言い分があります。

というのは、夜勤手当になると、日中とは比較にならないほど少数で回します。

利用者の状況もありますが、介護士一人で20人から40人くらいを担当することになるでしょう。

つまり、簡単な作業でも、大勢の人を支援するので、利用者から個別に言われるとそれだけ負担が増します。

まして、30分に1回というペースで頼られてしまうと、もう予定通りには進みません。

そんな状況を作り出したのは勤務している介護施設です。

しかし、それを承知で夜勤手当を願い出たのは、スタッフ本人です。

スタッフとしては、「辞めると大変だから」という貸しを作り、どこか言わせない雰囲気を既得権のように思っています。

でもそれって「誰が得なの?」って話で、利用者は肩身が狭く、スタッフに気を使わなければいけません。

介護保険制度の導入は、利用者を「お客様」として扱うことでした。

しかし、面倒みてもらうためにスタッフの機嫌をとるしかない状況は、本来の介護現場なのかという話でしょう。

施設の利用料は、金額に差があるものの、月額10万円では難しいこともあって、例えば自分の両親を施設に預けるとなれば、年金でもないとなかなか月に20万円以上を支払うのは容易ではありません。

にも関わらず、スタッフには上から目線で言われるとなると、利用者だけでなく、その家族も驚かされることでしょう。

介護業界がこれから成長していく業界と言われる理由

その大きな理由は、「求められるサービス」が提供する施設側も理解していないことでしょう。

例えば病院のサービスが理想なのかというと、確かに医学や医療という背景はあるものの、それだけで自分らしい暮らしになるのかというとそうではありません。

だからこそ、介護は医療から独立し、「その人らしい暮らし」を実現しようとしているのでしょう。

ところが、「生き方」を理解するのは容易ではなく、例えば社会的な地位や経済的な地位、夢やこだわりと言った複数の事がらが絡み合っています。

ある意味では「介護研修」だけでは到底補えるものではないでしょう。

でも、それを承知で補おうとするから、どうしても施設のサービスには戸惑いや違和感が生まれます。

確かに、利用者は笑っていたので問題行動とはいえないのかもしれません。

しかし、複数のスタッフがその利用者を囲み、話の内容がとてもデリケートだったら、それは見方や考え方によっては問題視するべきかもしれないと感じました。

なぜそんな状況になってしまうのか、それを制するこみちや他のスタッフはいなかったのかと思うと、なんだか介護士という働き方に「闇」を感じます。

ある意味で社会的なマウントを取っているように思えて、見ていてとても不快でしたし、必要ある行動には思えませんでした。

多くのスタッフはもちろん、現場の管理者までもがその場にいたので、問題行動とは判断しなかったのか、黙認されたのかは分かりませんが、こみちはとても胸が痛むこととして捉えていました。

皆さんの職場にはそんな状況はないでしょうか。

鈍感なこみちが気づくのですから、当事者である利用者はどんな思いで過ごしているのかと思ってしまいます。