利用者の性格をどこまで知り得るか?

 「優しい」利用者

本当なのかどうか分かりませんが、小説の世界で「悲しい」という表現がご法度ということを聞いたことがあります。

ーーー主人公はそれを見て「悲しい」と思った。

特に違和感のある表現に思えないかも知れません。

その時に聞いたのは、「喜怒哀楽」をそのまま活字として使うことこそがご法度で、それを感じてもらえる表現が必要だというのです。

その中でも「悲しい」というのは、確かにとても主観的で、その人には悲しいことも、別の人にはそれほど悲しくないかも知れません。

ある意味、大多数の人が悲しくないと感じる時、その人だけが「悲しい」と感じることもあり得るのです。

つまり、ある利用者はいつも明るくて、元気だから、「優しい人」と評されていたとします。

そんな様子だけを見た人は、「優しい」人と思うでしょう。

ところが、その人と二人きりになった時に、「本当は辛いし寂しの」と告げられたら、決して「優しい」だけの人とは思わないはずです。

こみち自身もそうですが、怒りっぽい時もあれば、妙に大人しい時もあって、臆病だったり大胆だったり、いろいろ「顔」があるのです。

社交的に見える人でも実は読書家で、ひとりの時間が好きだということも珍しくありません。

本当に「優しい」人でその人を言い当てているでしょうか。

幾重にも纏う衣のようなもの

子どもの頃は、とても天真爛漫だった人が、思春期に性格が変わってしまうことがあります。

さらには社会人となって、仕事でのキャリアや実績を重ねて、「風格」のようなものが付いて来ることもあるでしょう。

一方で、ある人から恋のアプローチを受けた時、あまりタイプではなくて断ってしまう時もあれば、好みではないのに何故か「なぜ?」と聞き返し、それが縁で交際に発展することもあったりします。

つまり、人は幾重にも衣のようなものをまとっていて、ある人には一番外側しか見せないし、親しい人にはもう少し内側まで見てもらいたくなるものです。

恋に落ちた時、言いようのない不安やトキメキが押し寄せて来るのは、自身も気づいていない部分までさらけ出してしまうからでしょう。

逆を言えば、聞き手によって、語り手は見せる段階を変えるものです。

いい人に見せたいという想いが強くなれば、口の悪さも影を潜めますし、復帰っれてしまえば何でもズバズバと言ってしまうのもあるでしょう。

そんな一面があるの?

こみちが介護の仕事で面白味を感じるのは、利用者の知らない一面に出会い、その人に対する評価や予測が大きく書き換えられた時です。

そして、同調とかシンパシーとかシンクロニシティーとか、人と人の間で起こる感情の共有化は、とても奥深い現象です。

時には、本人さえも気づいていない感情が芽生えることもあります。

そんな場面に遭遇できたら、こみちとしては興味をそそられるのです。

介護現場では?

こみちが小説や絵を書く理由があるとすれば、「自身の心で感じ取った「感情」を表現したい」と思うからです。

例えば、目の前に大きなクマのぬいぐるみが置いてあったとしましょう。

それはコストコで売っていたもので、ある女の子の持ち物でした。

そんな情報が読者に告げられた時、コストコで販売されているぬいぐるみを調べた人がいるかも知れませんし、女の子が持っていた理由や手に入れた背景に興味や関心を持つかもしれません。

つまり、目の前に見える「こと」というのは、確かに事実なのですが、それが全てではありません。

逆に今はそこに見えなくても、「かつてはあった」ことが大きな意味を持つ場合もあります。

何を見て、何を感じ取れたのか。

実はセンスでもあり、経験でもある、その人の持つ特性なのです。

介護現場で働いていると、同僚の行動が時々不思議に思えたり、かい摘んで話した時に意外に伝わらないタイプだったりで、実はその人のことをかなり思い違いをしていたのかも思ったりします。

連想や想像性が乏しいと、具体的で目に見えたことだけしか情報化できません。

時間軸で行動するのは、そうしないと「きっかけ」を見失うからです。

「相手の要望に合わせればいいだけ」という指示は、ある人には伝わりますが、別の人には曖昧で分かり難かったりします。

「もっと具体的に説明してください!」という人は、臨機応変に判断することが苦手なのです。

それだけ、介護士の感覚も様々で、利用者の観察や理解も異なります。

そのあたりの相違をどうやって補っていけるかが、施設のサービス力や質に関係します。

起きた症状の見えた部分だけを追う限り、本質にはたどり着けません。

でも、そこに「ある」ことが分からない以上、見えない人には感じ取ることも難しいのです。

利用者の理解度は、信頼関係を見れば分かりますし、信頼関係がない介護士ほど、過去の出来事で判断したがります。

介護士の能力は、人生経験や読書量、社会人としての実績など、幅広い視点から作りあげられます。

「老い」を理解しなければ、利用者の不安や固執行為も理解できないでしょう。