つい噂を聞いたのは数日前のこと
ある利用者の退所を耳にしたのは、数日前のことです。
コロナウイルスも落ち着きを取り戻し、これまで最低限の運営を継続している介護施設も徐々に本格的な活躍を取り戻して来た印象でしょうか。
だからこそ、水面下で進んでいた話が、末端にいるこみちのような介護士に聞こえた頃には、もう全てが決定していたようです。
そして、その噂話が現実になるのは、来週の火曜日です。
今日が金曜日ですから、「あと4日」。
絶対にないとは言えませんが、今まで退所された方で自宅復帰した人以外は再入所された方はいません。
中には、自宅生活を維持する為に、施設が運営するデイサービスを週に何度か利用している方は知っています。
しかし、利用者家族とあいさつを交わすことがあっても、利用者自身への接触は控えるように言われていて、以前のように気軽に話しかけることはできません。
実際、退所された方から、こみちが通路を横切った際に控え目に挨拶してくれたのが印象的です。
私的な感情を差し控えることは、介護士としての立場を再認識することにも繋がります。
介護士が施設選びをする際、数多くの施設を見学し、その雰囲気を確認することから始めましょう。
いくつも見て回ることで、同じように見える介護施設にも違いがあることが分かるはずです。
相性というのはとても大切で、生活に密着した介護となればなおさらでしょう。
ところが、利用者の退所先となると、本人の意向よりも家族の判断や事務的な条件によって決定されることになります。
というのも、利用者が施設を抜け出して、いろんな移転先を見て回ることが難しいからです。
しかも、老健から、有料や特養に移るということは、「自身の終の住処」を見つけることになるでしょう。
健康的な利用者でも、90代にもなればいろいろと心配ごとは増えます。
施設を変えれば、新たに出会いと別れがあるでしょうし、今の施設で知り合えた仲間たちとも会うことはできません。
自宅生活のように、手紙や電話も現状としては困難なので、当たり前に挨拶していた存在から思い出の中の人へと変わっていくのでしょう。
そんな出来事が、「あと4日」で起ころうとしています。
退所の朝に荷造りが始まれば、数時間後には利用者の居室は空になります。
そこでの暮らしが数年に及んだ利用者でさえも、「退所」の時は本当にあっけないくらい早いものです。
退所を待ち望んだ人もいますし、最後まで「イヤだ! 行きたくない!」と大声を張り上げていた人もいます。
こみちは、できるだけ日常業務に徹し、許される範囲を超えないように「見送り」をします。
別れを告げられない時には、無言で「握手」したこともあります。
なんだか切ないなと思いますが、それこそが「自立支援」なのでしょう。
あと4日ではありますが、いつもと変わらない気持ちで今日一日を大切に過ごしたと思います。