居合わせた介護士が考えていたこと

初任者研修と施設介護の違い!?


トランスの技術は何の為にあるのか?

介護未経験者の方を想定したブログなので、「トランス」の解説から始めることにします。

自宅で暮らしていた高齢者が、加齢や病気、事故などが原因で、歩くことや立ち上がり動作、記憶や計算、お金の管理など、生活の根幹となる部分についても誰かの支援が必要となれば、介護施設での暮らしも候補になります。

高齢者にとっては、自身の兄弟姉妹や子どもたちとの共同生活を望まれる方もいるでしょうが、遠方だったり暮らしぶりの違いなど、一緒に暮して行くことは想像以上に簡単なことではありません。

中には、そんな気遣いに疲れて、自身で施設入所を決めた方もいるくらいです。

さて、理由はどうであれ施設に入所すれば、その契約内容に沿って、レクリエーションやリハビリなども受けられます。

自宅で暮らしている高齢者でも、日ごろから運動や体操を取り入れることが、介護を必要とする暮らしの予防に繋がります。

それだけに、積極的に運動などに参加している人と、どこかサボり気味の人では5年10年経った時の心身機能に差が生じるでしょう。

そんな意識を持っていても、「老化」や「加齢」によって昨日とは異なる状況に陥ってしまうことも少なくありません。

急に手足の痺れや痛みを感じ、物を持つことが困難になれば、料理や洗濯なども行うことが困難になります。

仮にできたとしても、時間がとても掛かったり、何度も休憩を挟まないと完結できないでしょう。

介護士という立場になると、自分で立ち上がることが困難になった利用者が、ベッドから車イス、トイレ便座に座る時など、頻繁に身体を動かしてあげなければいけません。

こみちの感覚で言えば、介護度3の利用者は、自分一人で立っていられない人です。

当然、歩くこともできないでしょうから、多くは車イスを使っています。

そんな利用者の日常生活は、介護士による「トランス」と呼ばれる身体の移乗テクニックが不可欠となります。

それは、利用者の日常生活を維持するためでもありますが、介護士自身の身体を守るためでもあります。

というのは、利用者も大人ですから、小柄で痩せた人でも30キロはあるでしょう。

もっと大きな方なら、介護士の体重を超えていることも少なくないのです。

そんな利用者を1日に何度もトランスするので、誤った方法で行うと腰などと壊してしまう介護士もいます。

そこで、ボディメカニクスという原理原則を学ぶのですが、特別な技が詰まっているものではなく、どう身体を使えば介護士の身を守れるかが書かれています。

特に利用者の体重がどこに一番乗っていて、介護士がそれをどう動かせば楽に移動できるのかを知っているのといないのでは大きな差となります。

というのも、1キロの重りでも、その場で持つならできるでしょうが、20メートルもある長い棒の先端にくくりつけて、その端を持って持ち上げるとなると大半の人にはできないでしょう。

つまり、重さ以上に、「重心」を意識したトランスをマスターしなければ、腕力と気力に頼った介護になってしまいます。

腰痛になって介護士として働けなくなってしまうのはもったいない話です。

その意味では、初任者研修や実務者研修で学ぶトランスも、施設で目にするトランスも根本的な部分では同じです。

しかし、より利用者の負担にまで配慮すれば、研修で学ぶトランスの方が過去の経験をより反映していると言えるでしょう。

スピードを優先するために、時として施設では手荒に見えるトランスを行うことがあります。

しかし、負担の少ないトランスを知りながら、状況に合わせたテクニックを使うことが基本です。

どうしても基本を理解しないまま見よう見まねでトランスをすると、思わぬ時に腰をグキっと痛めてしまうでしょう。

ですが、一般的な介護士は、トランスをそれほど深い意味で捉えてはいません。

初任者研修では、約2ヶ月の研修期間ですし、実務としてトランスを教えられるのは長くても2日くらいです。

その時に理屈や理論、さらに実務上のテクニックをさまざまな利用者を想定してトランスへの理解を深めるには限界があります。

つまり、個々にトランスを理解しようと、様々な視点から研究したり、勉強することで身につくものなのです。

仕事でできればイイという感覚だと、勢いとタイミングで利用者を持ち上げてしまうでしょう。

介護を理論として眺めてみると、力などほとんど必要ない技術に行き着きます。

「施設のトランスって教えられたものと全然違うよなぁ」

昼食時、食堂の席が近かった別の部署の介護士たちの会話が聞こえて来ました。

「そうそう、全然違うよなぁ〜」

なんだか気になってしまいました。

彼らはどんな介助をしていて、腰や足、腕などを痛めていないのだろうかと心配になったくらいです。

でもある意味、一般的な介護士はそんな理解で現場に立っているのかもしれません。

だからこそ、日々の業務をしっかりと務めあげられるのでしょう。

こんなにも深い技術なのに、他のアルバイトと同じか少し少ない時間給ということもあるのが介護の仕事です。

トランスを深掘りすると、柔道やレスリングなどにも繋がります。

介護の仕事が、いろいろな職業に関連していることにも気づくでしょう。

本気で寄り添いができれば、営業マンとして活躍できるでしょうし、トランスと自動車の二種免許があれば介護タクシーだって始められます。

それだけ介護の仕事は幅広く、マスターするまでに時間が必要です。

だからこそ、「トランスって…」と話していた人たちも、半年1年と現場経験を重ねる中で、新たな意識や気づきが芽生えるのでしょう。

その頃に改めてトランスに触れると、教科書が何を伝えたかったのかを本当の意味で理解するはずです。

介護って本当に奥が深いですね。