介護士としての「寿命」との向き合い方

介護士だからこその「寿命」との向き合い方


突然ですが、目の前で困っている人がいたらどうしますか?

そもそも、本当に助けが必要なのかを見極める術はありません。

「どうかしましたか?」

と勇気を振り絞ってみたものの、相手が不満気な表情だったら立つ瀬もありません。

それでも声を掛けずにはいられないと思った時は、きっとあと先も考えずに行動していることでしょう。

先週から飲み込みが上手くできなくて、食べ物だけでなく飲み物もほとんど摂取できていない利用者がいます。

今は、大半をベッド上で過ごしていて、朝昼晩の食事は介護士ではなく看護師の対応です。

介護士の医療行為は例外を除き禁止ですが、看護師も独断で判断して医療行為を行えるとは限りません。

もっとも、緊急時には看護師も医師同様に医療行為が行えたりもするのですが、介護士にはそのような例外はありません。

例えば、朝から一切の飲み物も食べ物も口にしていない利用者がいたら、介護士はどんな対応をすればいいでしょうか。

利用者の健康状態を診察することもできないので、バイタルを測定して医師や看護師に事態を報告することが大切です。

必要であれば、実際に利用者の様子を見てもらえるように促すことも必要でしょう。

では、ある看護師が「今後の対応はこちらにお任せ下さい」と言って、数時間も利用者が放置された状況だったら、介護士は別の行動を起こす必要はあるのでしょうか。

食べ物を口にしなかったからと言って、その日に命が尽きるとは考え難いでしょうし、看護師が対応すると説明した以上、介護士がその後の対応に口を挟むべきではないとも言えます。

一方で、利用者の体調が著しく悪い時に、「喉の渇き」を訴えられても介護士が対応しないでも良いのでしょうか。

飲み込みが著しく困難な場合、介護士が自己判断で無許可のまま利用者に水を飲ませることはできません。

ですが実際の現場で、利用者からの訴えがあった時に、「看護師さん、どうしましょうか?」と確認するのは必要でしょう。

介護現場のあるある!?


介護現場では、看護師と介護士の不仲は珍しい話ではありません。

というのも、専門職という意識が強い看護師と、どこか「下」に見える介護士とでは上手く尊重できないこともあるからです。

しかし、利用者からの訴えを介護士が伝えなくても良いとは思えません。

介護士によっては、利用者の管理が看護師になったということで、様子さえ見にいかないことも起こり得ます。

「そんなことになっていたとは気づきませんでした」

本当にそんな言い訳で、一人の利用者の身の上に起こったトラブルを回避できるでしょうか。

特に「生命」という意味でも、介護士のモラルが問われるでしょう。

意外と明確に線引きされてしまう!?

こみちが感じたのは、先輩介護士に相談した時の応対です。

「だって看護師対応だよ!」

気づかないという前提で、利用者の様子を見ないつもりなのです。

もしも、自分の家族なら?

そんな想像はご法度なのでしょうか。

利用者にとって、看護師と介護士の不仲など、どうでもいい話です。

今できる事。求められている事を行うことが介護士の仕事ではないのかと思ってしまいます。

ただ、簡単ではないのは、「延命行為」との関係でしょう。

本来なら「自力による嚥下」が望ましい!?


生命維持装置を使うと、それを外すことはできません。

その意味では、「生きる」の限界をどこに定めるのかはとても難しいことでしょう。

介護士としてどこまでするべきで、どこからは見届けるべきなのかは、今のこみちには判断できないことも多いです。

よく知っている利用者だけに、笑顔を取り戻して欲しいと思うからこそです。

一方で、「寿命」をどう理解するべきかは避けられない問題でしょう。

そして、不仲を理由に関わらない姿勢を貫こうとする介護士の姿を受け入れることは今のこみちにはできません。

「すいません。ちょっといいですか?」

幸いこみちは看護師と不仲ではないので、勇気を出して聞きに行きました。

様子を見かねて看護部長まで加わって、利用者の様子を見てくれることになりました。

「嚥下が難しい状況なので、専門的な判断がくだるまでは迂闊なことができない」ということらしく、看護師も見捨てたわけではありませんでした。

「こみちはネェ〜」

後になって、先輩介護士から言われました。

「何ですか?」

「まったく…」

「え?」

今もその利用者はほとんど栄養を摂取できていません。

今後、どのような事態が起こったとしても不思議はないでしょう。

こみちのとった行動は、例外的だったのかも知れませんが、専門知識のないだけに「報告する」ことしかできませんでした。