介護施設長の思いつき

ある介護施設の日常


その日は、日勤帯の勤務でした。

日勤帯とは、朝食が終わる頃から仕事が始まり、昼食、オヤツ、夕食までを担当する勤務形態です。

それ以外にも、寝起きから朝食を担う早番や、夕食を終えて寝室で横になるまでを担当する遅番、さらに夕方から夜、朝方までの夜勤帯などもあります。

つまり日勤帯というのは、利用者の日常生活に寄り添う時間帯なので、お茶を飲みたいとか、家族が届けてくれたチョコレートが欲しいか、リハビリもあればお風呂に入ったりと、個々の利用者ごとに決められたスケジュールに沿って割と慌ただしいのです。

例えば、介護士が急に休んでしまうと、予定された担当を再配分することになり、入浴のように固定される業務などは極端に忙しさを増します。

介護士という仕事で体調管理が強く求められるのは、同じ時間帯に入る他の介護士にとても大きな迷惑を掛けてしまうからです。

一方で、仕事の流れを理解していない介護士がいると、手つかずの仕事が残っているのに利用者と談笑していたりします。

利用者の立場になると介護士との談笑は楽しいものですが、仕事をこなさなければいけない立場になると、「それは今でなくても良くないの?」と思ってしまうでしょう。

通常、オムツ交換は、5分以内のペースでこなしたい作業です。

5人いれば25分ですし、10人なら50分が目安でしょう。

簡単な作業ならもっと短い時間で終わりますし、困難な作業になるとそれなりに時間も増加します。

とは言え、実はオムツ交換という作業も、他の介護士にとってはその後や最中も別の仕事を抱えているわけで、例えば利用者と談笑しながらだったと言って、1人に30分も掛かるのは問題です。

つまり、目の前の仕事に誠実に向き合うことも大切ではありますが、全体の動きを見て今の仕事なら何分以内で片付けようと考えるクセをつけましょう。

オムツ交換に入ったら、1時間でも2時間でも延々と仕事をするという姿勢では、予定通りに作業が進まないばかりか、同じ時間帯に入った別の介護士が残りの業務をすべて1人で回すことになるからです。

「介護士の力量はオムツ交換を見えれば分かる!」

そんなことは、絶対にありません。

食事介助や入浴介助でも同じで、単発の仕事ができるのは「介護士として当然」のことです。

時には2つも3つも抱えて仕事をすることだってあるでしょうし、それを理解しない介護士や管理者が多い施設ほど、職場環境は悪くなります。

逆を言えば、いい介護施設を作るには、個々の作業を効率的に行えるトレーニングをして、さらに現場でも何をしなければいけないのかをベテランから新人まで分かるようにすることです。

そうなれば、管理者である施設長が、介護現場を知らないとどうなるでしょうか。

オムツ交換の研修や勉強会に参加したら、介護現場を理解できるでしょうか。

例外的にポイントを掴むのが得意な人なら、未経験の領域でも妥当な判断ができたりもします。

ただ、頭で考えるタイプの管理者ほど、現場が本当に改善して欲しい部分に気づきません。

現場を回せない時に、スタッフの頭数だけを集めようとしても、そこに指揮する人がいないければスタッフは無駄な動きをするでしょう。

つまり、それぞれが仕事を理解して、他のスタッフと連携しながら仕事を勧められるというのは、容易に作れる組織ではなく、そこに至るまでのプロセスや段階を経てこそなのです。

よく誤解するのが、「〇〇研修」や「〇〇勉強会」に刺激を受けて、その一部分を咀嚼もせずに現場に持ち込むやり方です。

なぜそんな方法が今の現場に必要なのかも説明しないで、例えば「最新の介護」とか、「他の施設で導入している」からという理由では、現場を混乱させます。

一般的には、効率的に作業するほど遊びがないので柔軟性は減ります。

つまり、何かを固定し制限することで余計に身動きが取れなくなれば、現場の負担は増えてしまいます。

その意味でも、導入する前に利点がどこにあるのかを明確にしましょう。

思いつきで施設長が何かを始め出し、現場スタッフが手を止めなければいけないとなると、急にその日の仕事が混乱します。

30分も1時間も自由な時間が取れない現場の介護士にとって、「どうかなぁ〜?」というような話に付き合わされるのはちょっとした苦笑いを誘います。

もう少しいえば、現段階で勤め先の労働環境が簡単には改善しないことを知るきっかけにもなるのです。

例えば、大柄な男性の施設長が、現場で働く小柄な女性介護士でも簡単に使えるトランス(移乗介助)をレクチャーしないなら、勉強会で自分のやりやすいスタイルを学んでも仕方ないわけです。

というのも、力も体格も異なる場合、介助方法は異なります。

男性と女性、大きな人と小さな人、力のある人ない人など、いろんなパターンにも対応した介助でなければいけません。

そこを無視してオススメの介助をレクチャーしてしまうと、「私には向きません」という当たり前の答えが返ってきてしまいます。

試さないと分からないという指摘もありますが、できることなら「まずは大丈夫だろう」というところまでシュミレーションしたうえで行動に移すべきできなのです。

いきなり現場で始まった即席の勉強会のせいで、放置された業務を残されたスタッフが慌ただしく熟すことにも気づかないで、「オススメの介助」を時間無制限で提案しているのは現場を無視しすぎでしょう。

ある意味で、そのスタイルは一般のサラリーマンの手法です。

介護は現場があって、時間が来れば仕事もどんどん変わります。

いつも100点ではなく、80点をコンスタントに取り続けるようなものなのです。

だからこそ、現段階で100点とは限らない試算段階の「提案」に貴重な時間を奪われるのは介護現場を知らない人でないとできません。

それが現場と管理者の溝となり、「急な辞職」に繋がるのです。

「もっと大切なことってあるのになぁ」と思うのは、現場で働いている介護士だからからかも知れません。

「何かしないといけない」

そんな焦りから、現場受けしない施設長の行動も多くなるのです。