休み明けに感じていたこと
休み明けに施設を訪れると、利用者の表情がまったく違っています。
同じ人とは思えないほどで、何かあったのかと心配になるほどです。
特に、認知機能の低下が見られる利用者ほどその傾向が強く、半日ほどは接していてもどこか違和感を感じたままなのです。
ライバル現れる!?
こみちには職場にライバルがいます。
その介護士は、別の施設で長い経験があり、半年くらい前に移って来た人です。
先輩たちからの指示には「ハイ」と言って従うのですが、こみちには「同僚」という感じで、不満や裏話をしてきます。
介護施設で心得たいことの一つは、「悪口」を言わないこと。
不満や改善ポイントは、みんなに分かるように「ミーティング」などで発言することです。
「〇〇さんって…」
そんな噂話に共感でもすれば、「こみちが言っていた!」と話がすり替わるかも知れません。
まして、知らないところで広がれば、急に周囲の視線が変わってしまうでしょう。
さらに、こみちがしている仕事の真似を始めます。
お茶を配り出したら、おしぼりを後から配るような感じです。
こみちにすれば、例えば夜のオムツ交換の準備や、夕食の配膳準備など、まだまだやりたいことはたくさんあって、今はそれをしているに過ぎません。
それでも、似たような仕事で張り合ってくるので、こみちとしてはちょっと苦手なのです。
「〇〇って済んでる?」
「まだじゃないですか?」
きっと、同じような仕事ではなく、「他の仕事をしたら?」と伝えても、ピンと来ないのかも知れません。
別の介護士で、ケアマネ資格を持ちながらも「平の介護士」として働いているベテランさんがいます。
どうやら、こみちが休みだった日に、ストレスで「感情」が荒々しくなったそうです。
そんな話が聞こえて来たのも、職場の分担がかなりアンバランスで、動く人には沢山の、動かない人はそれなりの仕事になっているのです。
確かに利用者の表情も違いましたし、今日のメンバーも疲れました。
動かないとスケジュールを熟せないので、一人で急いでいるような感覚でした。
でも、そんな働き方を当たり前にしてしまうと、段々と介護士が辞めてしまうでしょう。
ケアマネ資格の介護士も、動くだけ周りの足が止まってしまうので、感情的な言葉が出たのではないでしょうか。
午後なると、利用者の表情も柔らかくなり、隣にしゃがみ込み、「〇〇さん!」と声を掛けると、「あら! いつ来たの?」と笑顔を浮かべてくれます。
本当は朝からいたのですが、「〇〇ってどうですか?」共通の話題を振ってみると、「そうねぇ〜」と真剣に考えて「貴方にお任せするわ」と言ってもらえました。
もちろん、何の話なのかもよく分かりません。でも、そんなやりとりができるほど、利用者はよく喋りますし、笑顔を浮かべています。
出社当時とはまるで異なる様子なのです。
介護って何だろう?
こみちから言えるのは、「介護は相手の人生を生きること」です。
つまり、自分の時間と一緒に相手の時間としても過ごします。
だから普段以上に疲れますし、極度のストレスもたまります。
「どうしてしてくれないの?」
利用者はよくそんな言い方をします。
介護士の中にはいろんな言い訳で利用者の要求を先延ばしにします。
それを続ければ、中にはテーブルを叩いたり、機嫌を損ねてふくれてしまったりとフロアー内の雰囲気が一変するのです。
それはつまり、介護士が自分だけの時間で生きているからなのです。
立ち上がることができない利用者は、介護士に身体を支えてほしいはずです。
しかし、そんな要望に応じてもらえないと、日ごろから不自由な感覚を持っているので、利用者は感情的になりやすいのです。
「何で助けてくれないのよ!」
「だから待ってください!」
「もういい! 転んでも良いんだ!」と弱々しい足腰で、無理やり立ち上がろうとするのです。
「ジッとしていてください!」
その時も、介護士は自分の目線で利用者を諭します。
「もういい!!」
きっとこみちが休みだった職場では、そんな攻防が繰り広げられていたのでしょう。
こみちよりも介護技術に長けた人は大勢います。
しかし、相手の目線で動く人は少ないのかも知れません。
自分のペースではなく、相手のペースに合わせるだけでも、ストレスが掛かります。
それを何度も何度も繰り返す介護の仕事は、上手い下手では割り切れません。
つまり、相手が本当に望むことを「その時」にできることが大切なのです。
何もない時にできるのではなく、3つも4つも仕事が重なる中で、「今、着ている洋服が嫌いだから、別のに着替えたい!」と言われて動けるかどうかです。
「何でその服が嫌なの?」
汚れていなければ、着替える理由など想像できないでしょう。
しかし、実際に着てみると肌触りが悪いとか、チクチクして痛いとか、利用者にしか分からないことがあるのです。
でも介護士はいろんな仕事を抱えていて、「面倒な仕事」は増やしたくありません。
そこで、「待っていてください!」と言ってしまうのです。
しかし、利用者にすれば、待てる話ではないでしょう。
「着替えさせてって言っているの!!」最後には大声を張りあげているはずです。
介護士自身が限界になると、乱暴な言葉を使います。
「待ってくださいって言ったでしょ!!」
もう何も言わせないぞという気迫で、利用者を制しようとします。
それを感じ取り、まってくれる利用者もいますが、さらに大声で応戦する利用者もいるのです。
100の内、99をこなしても、残り1に当たった利用者は「してくれない」と不満に感じます。