介護職のやりがい
その日、1時間の休憩を終えてフロアに戻ってくると、居室から利用者が顔を出して手招きして来ました。
「どうしました?」
いつも親しくさせてもらっている利用者で、半身分だけ開いたドアの前まで歩み寄ると、「オムツ交換してくれないか?」と持ち掛けて来ます。
オムツ交換そのものは、定時の交換もあるのですが、利用者の申し出で随時行うのが通常となっているので、「ハイ、準備してきますネ」と伝えて待っているように伝えました。
その足でオムツ道具を乗せたワゴン車を取りに向かったのですが、「〇〇さん?」とこみちに気づいた先輩介護士が声を掛けてきます。
「そうです!」
短く答えてワゴン車を押し始めると、「さっき済ませたはずだよ!」とまた同じ介護士が教えてくれました。
「そうなんですか? でもちょっと確認して来ます」とアドバイスを聞きながらも部屋へと急ぎました。
「〇〇さん…」
居室のドアをノックしようと拳を握ったところで、またドアが開きます。
「オムツ交換してもらった?」
「アハハ、そうだった」
何だか頭をかきながら申し訳なさそうに利用者が答えます。
「じゃあ、良かったですね! 他に何かある?」
という聞けば、部屋に入って来て欲しいと手招きをしています。
「どうしたの?」
部屋に入ると、そこには利用者の趣味である絵がいっぱい飾ってあります。
「この絵は家族旅行で…」
何枚もある絵の1枚を指差し、もう何度も聞いた説明をし始めます。
「そうなの? すごいですね!」
「こっちはねぇ…」
時間があれば、15分くらいは話続けることもあります。
「あと、この水筒にお茶を入れて欲しいんだよ」
「熱いのがいいですか? それとも」
そんな話をしていると、いきなり利用者がこみちに抱きついて来ました。
初めてことだったので驚いたのですが、その利用者は排せつだけでなく入浴でも支援させてもらっているので、いきなりにも関わらずハグでもするような感じになりました。
「これ、あげるよ!」
そう言って、手にしていた小袋のお菓子をユニフォームのポケットに突っ込んできました。
「待って待って、貰えないですよ!」
介護士が利用者から受け取ることが問題になっていて、利用者の気持ちも有り難かったのですが、丁重に断ることにしました。
「気持ちだけで十分ですよ! その気持ちが嬉しいです!」
「欲しい時は言って!」
「そうですね。ありがとう。それで、何の用でしたか?」
いつもの窓側のイスに腰掛けた利用者は、制作途中の絵を描き始めます。
実はこみちが絵を描くことが好きなのは伝えていません。
いつも、利用者が描く側で、いろんな雑談をするだけです。
「あと、20分くらいでオヤツの準備できますよ」
「今日は何?」
「何でしょうね?」
「調べておかないと!!」
「すいません!」
部屋を出る時、「じゃあ後で!」と手を振れば、笑顔で手を振り返してくれます。
こみちが入職するずっと前から施設暮らしを始めた利用者。
以前は他の利用者と大喧嘩もしていたらしいですが、今はすっかり優しい人になりました。
こみちが介護士を続けられる大きな理由は、そんな利用者との触れ合いがあるからなのです。