食事介助
「〇〇さん、昼食ですよ。今日は、牛丼みたいですよ〜」
そんな声掛けをしながら、一人では上手に食べられない利用者の側に腰掛けます。
この利用者は、唇の左側に軽い麻痺があって、自身で上手に口を開けられません。
また、ターミナルケアの初期段階にも該当し、無理な食事を行うことはなく、利用者の意思に合わせた食事の提供を行なっています。
「お茶飲みましょうか?」
トロミを付けたお茶は、液体というよりも柔らかいゼリー状といった状態です。
もちろん、食事はご飯もおかずもすべてペースト食になっています。
最近、車イスを使うこの利用者ですが、座位の保持が安定しません。
時に右に、時に左に傾くので、クッションなどを使ってもたれかかれるように工夫しています。
スプーンにお茶をすくい、利用者の口もとに運ぶと、その日は調子が良いのか数ミリほど自分から口を開いてくれました。
数回、飲み込みを確認しながら口の中で差し入れ、「じゃあ、食べようか?」と声掛けます。
薄茶色の煮込んだ牛肉をスプーンに半分掬い取り、さらに粒のないお粥のようなご飯も乗せて利用者の口もとへ。
「美味しいかなぁ?」
上手く口の中に差し入れられ、乗った牛肉とご飯がスプーンから消えました。
「モグモグしてね!」
「ごっくんするんだよ! 口を見せて?」
割とコミュニケーションが取れることもあり、呼びかけにも素直に応じてくれます。
麻痺の影響なのか、飲み込めた反面、麻痺側にはまだ食べ物らしいペースト状のものが見えました。
「さぁ、コレは何だろうね?」
付け合わせの緑色はサラダです。
赤色の部分は、トマトなのでしょうか。
それをすくうと、また利用者の口もとに運びました。
「サラダですよ。あ〜ん!」
少し差し入れるタイミングが合わなかったのか、口もとからヨダレが流れ出して来ました。
ティッシュを使って口もとを拭き取ります。そして、スプーンを口の中に入れました。
食事時間は長くても15分くらいです。だいたいは、10分ほどで口を開かなくなり、首を振り始めます。
「もう良いの? 最後の一口ね!?」
「最後」を聞き取ったのか、首を振っていたのに口を開いてくれました。
利用者との意思疎通
認知機能が低下していても、ある程度のレベルでは十分に意思疎通できます。
ある程度とは、食べる食べない、飲む飲まない、トイレに行く行かない、といった内容です。
また、利用者は何かモゴモゴと話をしてくれます。
「何? どうしたの?」
「ありがとう」
などと伝えれば、「良かった」とか「ありがとう」と言ってくれることもあります。
何に対して言ったのかは分かりませんが、嬉しそうに微笑んでくれて、「どうしたの?」と聞き返せば、照れ笑いして「良かった良かった」と繰り返しています。
「お茶飲もう!」
「貴方は?」
「私ですか? もう飲みましたよ。2杯もね。一気に…」
飲むフリをして見せると、驚きながらも「良かった」と言ってくれます。
「〇〇さんのお茶ですよ」
食事介助の人とは異なる方ですが、この人はもう少し意思表示が明確にできます。
なぜか目を閉じて、不安そうに唇を尖らせて、すするようにお茶を口にします。
「熱くないでしょう!?」
「美味しいねぇ〜」と今度は、少し自分からコップに唇を寄せます。
「ゆっくりね」
急ぐと誤嚥してむせこむこともあるので、利用者自身のタイミングで飲んでもらいます。
こみちの勤務する施設には、認知機能が低下して、食事時に使用するエプロンを風呂敷のように使い、テーブルの上のティッシュ箱を器用に包んでいる方もいます。
「何しているの! ダメでしょう!!」
と怒鳴ってしまう介護士もいるのですが、こみちなどは「何しているの?」をきっかけに利用者との会話を愉しみます。
思い出話を始めたり、仮想の予定を語り出したり、でも最後に「これからご飯だよ!」と告げると、「そうなの?」などと驚いてエプロンを付けさせてくれます。
それでもしばらくすれば、またエプロンで目の前の何かを包んでいたり、ネクタイのようにねじって、満足そうにしていたりと反応は様々です。