かつての住宅地で起きている現実
こみちがまだ小学生だった頃に地元に新興住宅地ができました。
古い町並みとは異なり、碁盤の目に造られた直線道路に向かって、お洒落な住宅が並んだ一帯です。
ところがあれからもう30年以上が経過しているので、若夫婦が移り住んだ宅地ですが、子どもたちはすでに親元を離れ、老夫婦となった彼らの姿を見かけます。
「何丁目の〇〇さん、入院したって」
聞けば、庭先で転倒して動けなくなったというのです。
そんな話が月に一回は耳にします。
知り合いから聞いた話
あるお宅のご主人から、住宅改修の話が舞い込んで来たそうです。
そこは、周辺の住宅地の2区画部を有する大きな家で、なんでもご主人は会社の社長さんだったと聞きます。
「良いお得意さんだよ!」
「へぇ〜」
改修工事の打ち合わせをしている時、そこのご主人は値切ったりしなかったと言うのです。
社長をしていたくらいの人だから、資産家なのではとこちみは考えていました。
「イヤイヤ、そうでもないよ。お金持ちだってシビアな人はいるよ」
「だったらどうして?」
思わずこみちは、値切らなかった理由が気になりました。
「「何かあった時に連絡してもいいか?」って言うんだ」
「どう言うこと?」
「そこの家、80代の老夫婦なんだ。それで困った時に連絡したいと言って来たんだ」
「だから、値切らなかったのか?」
「ああそうだ。でも凄いなぁと思ったよ。お金を出すから助けてくれとは言わずに、仕事を発注して付き合いを始めたいというんだから」
「それで何か言って来たの?」
「いいや。一度もないね。でも、仕事はまた発注してくれたよ」
筋力が弱くなる高齢者たち
我々なら少し重い庭木だって運び出すのは難しくありません。
しかし、筋力が弱った高齢者は、そう簡単な話ではないのです。
だからといって、子どもたちは地元にいませんし、見ず知らずの業者に頼むのも気が引けるでしょう。
そうなると、地域との関係をどう構築するかは難しい問題です。
20キロの庭石を運ぼうとして転倒するくらいなら、気心の知れた人にちょっとお願いできたら安心です。
しかも、仕事ぶりまで見ていれば、どんな人なのかも分かるでしょう。
知り合いの彼なら、確かに安心です。
見た目はちょっとぶっきら棒にも見えますが、笑うと意外に可愛いのがギャップです。
なにより、人に助けを求められたら、それに応えようとしてくれそうです。
介護の公的なサービスというのもありますが、地域で住んでいればさまざまなことが起こります。
特に高齢者夫婦にとって、庭木などの手入れや家の補修工事は、気掛かりなことでしょう。
どうやって近所付き合いを始めれば良いのか?
その方法はいろいろありますが、社長だったご主人の行動が計算されたものならば、流石としか言いようがありません。
物の値段と言うのは、その対価ばかりではなく、人と人とを結びつける役割も果たすのです。
知り合いから聞いた話、なんだかいいなと思いました。
「ご主人さん、元気!? 困っていることない?」
そんな声かけがあるだけでも、知り合いとの関係が実を結んだと言えるでしょう。