成長できる会社。できない会社。

従業員が増えると会社はどうなるのか?


会社を一人で立ち上げた時、意思疎通で問題になることはありません。

また、新たにパートナーを迎えた時も、ポイントを押さえることで問題を回避できるはずです。

ところが、10人、30人と増えてくると、段々と伝言ゲームをしている状態になり、細かなニュアンスが削ぎ落とされてしまいます。

「AをBに笑顔で渡そう!」と伝えたつもりが、「AをBに渡せば良い!」とか、「笑顔が大切」というように、本来の意図とは異なる情報が伝わります。

きめ細やかなサービスをモットーにしたくても、大企業になるほどシンプルなサービスを前提に考えるべきなのも、従業員の増加は企業の戦略にも深く関わってきます。

こみちの住む街に、とても美味しいと評判だったケーキ店が店舗を拡大してリニューアルオープンしました。

新規の客を取り込んだ一方で、以前よりも味が落ちたとか、手作り感を感じなくなったという声も聞きます。

仕事の進め方に大きな違いはないようでも、そこに関わる人が増えると、目的や目標をしっかりと掲げておかないと、いつの間にか何のために仕事をしていたのか見失ってしまいます。

介護施設は成長できるのか?


結論から言えば、介護施設が成長するには、もう少し時間が必要だと思います。

この「時間」の意味ですが、一人ひとりの従業員(介護士)が自分の役割を理解して仕事に取り組めるようになるまでに必要となる期間です。

介護の仕事は、生活支援という性質上、誰にとっても身近な反面、「これくらいでイイ」と勝手に思い込んでしまうケースも少なくありません。

特に、中高年の介護士は、これまでにも異業種で働いた経験があり、仕事に対しての手の抜き方も身についています。

若い世代のように、介護の仕事で一人前になって…というような決意をすることもないでしょう。

そんな職場では、リーダーの役割がとても重要になります。

一つには施設全体で目指している目標、もう一つには現場での目標を共有しながら働ける環境づくりを行うべきです。

しかしながら、組織を束ねるためのキーマンを育てるのは容易ではありません。

場合によっては、経営陣と管理職で壁ができ、管理職と現場スタッフでも壁ができます。

つまり、意思決定でのトップダウンも、ボトムアップもできないことになり、現場は現場で判断して仕事を進めるようになります。

以前にも紹介したことですが、入職して1年が経つのに、未だにオムツ交換を担当しない介護士がいます。

その人は、車イスを押してトイレ誘導はするものの、トランス(乗り移り)もできないので、自立困難な利用者のトイレ介助もできません。

介護支援のほとんどができないので、お茶配りなどをメインに担当するのですが、それでもコップを下げるのは誰かに指示されて始めるほどです。

その人のために仕事を用意しておくという非効率な状態になれば、何のために働きに来てもらっているのか分からなくなるでしょう。

つまり、介護施設の人材不足は、そんな状態なのです。

介護技術を学びたいと思って入職した人が十分に仕事を教えてもらえずに、いつまでも仕事の進め方を間違えたままになってしまうのは、施設の指揮系統の問題です。

経営陣は、介護の面倒な問題に関わろうとしません。

管理職は、事故や危険にばかり注意しています。

リーダーは、現場を我がもの顔で、他の介護士をアゴ使います。

まずこんな介護施設では、スタッフが逃げ出してしまうでしょう。

リーダーが率先して動く


見本となる姿をリーダーが示すと、他の介護士たちがどう思うでしょうか。

介護の仕事を選んで入職した人たちなら、リーダーの姿に刺激を受けて段々と一緒に動き出すかもしれません。

しかし、それはよほどリーダーが人格者でもないと難しい話です。

現実は、リーダーだけが働き、他の介護士がマイペースで仕事をするようになるでしょう。

オムツ交換だけ、ゴミ捨てだけ、〇〇をしたら働いていると思い込み、利用者の様子にも気を配らなくなります。

だからこそ、大きな目標を掲げる前に、「仕事の進め方」を分かりやすく工夫する必要があります。

リーダー自身も無我夢中で働くのではなく、「ある仕事の進め方」を徹底して介護士に伝えることが不可欠なのです。

最初に覚えてもらうのは、「タイムスケジュール」です。

「何時にどんな状況になっているべきか」をベースに、1時間ごとの変化を書面で示しましょう。

そこに、必要となる技術として「オムツ交換」や「トランス」など、できれば利用者ごとに介助のコツやポイントを記載します。

それぞれの介護士独自のやり方を勧める前に、施設の方針としての「ケア」を伝達するべきだからです。

多くの人数がいる場合には、数パターンに分類して、その代表的なケースを覚えてもらうのも有効です。

AとBとCができれば、「Aのようにしながら、フラつきに注意して」というようなアレンジで仕事を任せられます。

共通認識があるからこそ、どこまでが同じでどこか違うのかも通じます。

これは、冒頭に紹介した伝達ゲームで、結果を予め3パターンに絞ることで、答えが大きく外れてしまうミスを回避できます。

そして、3パターンの1つを示しながら伝言することで、ポイントだけを意識的に伝えます。

こうすることで、より柔軟に意思疎通が可能になります。

3パターンで物足りないなら10パターンにしてもいいでしょう。

そこで、伝達システム構築の手間と実務の効率化を考えて、パターン数を決定すればより効果的です。

介護の仕事は?


介護の仕事は、これまでに示したようなパターン化で補える部分に面白みはありません。

しかしながら、少ない労力で現場を回すには、最低限の意思疎通として押さえておくべき内容です。

これができていれば、「面白くはないけれど、確実に現場を回せるシフト」が完成します。

それぞれが行うべきことをするので、5人で回していた現場を3人でも回せるでしょう。

ただし、それは現場を滞りなく運営させる方法であって、介護支援の目的ではありません。

やはり、介護は利用者の生活支援にあり、寄り添いの中で生まれるものだからです。

寄り添いを経験する際、目線を合わせるという方法が示されます。

座っている利用者に対して、立ったままで話を聞くと、利用者は自ずと見上げる姿勢になり、精神的に抑圧された状態になるというものです。

しかし、実際の現場では、「目線を合わせる」とは「物理的」ではなく「精神的」な意味だと分かるでしょう。

利用者は正確な言葉を使えないことも多く、介護士がさまざま状況から補足して意図を汲み取ります。

その際、利用者の立場になることこそ、「目線を合わせる」という意味なのです。

利用者の視野は狭く、耳も遠くなり言葉が聞き取れません。

どんな風に話をすれば利用者に伝わるのかを考えることで、どちらの耳が良いのか、声のトーンやピッチはどうすれば良いのかなど、介護士の方で改善しなければいけません。

同年代の知り合いに話すように、略語を使っても良いのか判断できるでしょう。

つまり、どうしなければ伝わらないという経験こそが介護特有の仕事なのです。

オムツ交換や食事介助を介護そのものだと誤解するケースもありますが、それらは介護業界のテクニックです。

自分目線で動く人は、どんなにオムツ交換が早くても良い介護士ではありません。

なぜなら、利用者の気持ちが満たされていないからです。

結局のところ、少しくらい下手でも、利用者が満足していれば介護として非難されるところはありません。

しかし、利用者が侮辱されたと感じたり、惨めな思いをしたのであれば、そんな仕事は介護ではないでしょう。

介護施設として、どんな支援を目指して行くのかを明確にすれば、そんな間違えた働き方をしてしまう介護士を減らせるはずです。

しかし、こみちの感覚として、介護士を利用者の支援に興味を持って始めた人は、中高年の転職組からは少ないかも知れません。

採用されやすい職場として働き始め、施設や現場の指示を受ける中で「介護」を段々と理解して仕事の進め方を学ぶのだと思うのです。

その時に自分勝手な解釈をしてしまう介護士が多いと、現場は無駄の多い支援をして、成長しない会社のなってしまうでしょう。

結局は、経営陣の方針が何よりなのですが、「こんなものだろう」というスタンスが抜けないのも事実で、だからこそ現場も成り行きで進んでしまいます。

最も、今のうちにノウハウを作った施設は評判になり、成り行きで進む施設は立ち行かなくなるでしょう。

介護の難しさは、「技術」と「心理」をきっちりと分けて取り組むところにあります。