社会福祉士という役割
介護施設で、さまざまな支援を必要としている利用者と触れ合うと、「介護」の難しさを実感します。
この「難しさ」とは、介護そのものの難易度が高いというよりも、話が複雑になりやすく解決策が見つかり難いという意味合いです。
利用者とその家族、施設と介護士を結びつけるのは、ケースワーカーなどとも呼ばれる社会福祉士の役割です。
利用者やその家族からの要望を十分に引き出せないままで施設入所を迎えると、どんなに優れた設備も活かしきれないのは当然のことでしょう。
「何をどうして欲しいのか?」
社会福祉士は、利用者とその家族から聞き出して、現行の施設でどう関わり合えるのかを考えなければいけません。
当然、施設の設備だけでなく介護士のスキルや柔軟性についても熟知している必要があり、形式的な介護スキルだけで判断してしまうと受け入れを失敗します。
そして、この「失敗」は表に出ないことも多く、利用者やその家族にすれば、「もっと教えてくれていたら…」と後々になって後悔するような類いです。
例えば、ある利用者の嚥下機能が低下いるとしましょう。
嚥下とは、口に入れた食べ物を安全に飲み込む能力を指しますが、低下すれば本来なら食道に導かれる食べ物が気管に入り、むせこんだり誤嚥性肺炎になったりと、高齢者の食事では注意しなければいけないポイントです。
通常の食べ物を食べにくくなると、一口大の大きさに切ったり、さらに刻み込み、すり下ろしなど、食べ易さを優先した食事形態に変化します。
一方で見た目も食事の楽しさとすれば、色味こそ違ってもすり下ろした食材は今までの食事のイメージとは程遠いと言わざるを得ません。
ここに1つのポイントがあって、「食べ難いのだから、見た目が悪くなるには仕方ない」と受け入れるべきかどうかです。
社会福祉士として、利用者と施設の間に立つ人は、「仕方ない」でいかに片付けないかが重要です。
そこには、施設内の調理部門がどれくらいのスキルを持っていて、どこまで細かいニースに対応できるのか知っていなければいけません。
場合によっては、情報を伝達するだけでなく、調理場に足を運んで「可能性」を提案することも大切です。
頭ごなしに「何でできないの?」では、調理場と壁を作ってしまいます。
提案に耳を傾けてもらい、改善に進めるかは社会福祉士の本質が問われる瞬間でしょう。
「〇〇さんに言われたら、やってみるしかないなぁ〜」
そんなコミュニケーションの中で、現状を変えて行くことも実は社会福祉士の役割です。
栄養士と調理師の役割
基準となるカロリーや栄養素を満たした食事を提供するのは、栄養士や調理師の仕事です。
提供することで満足してしまうと、利用者やその家族は意外と不満を溜め込んでいます。
単純に利用者やその家族は、改善策を訴えることができないので、栄養士や調理師が自身の仕事ぶりを自分たちで確認する習慣が不可欠です。
特に提供し戻って来た残飯は、ヒントがたくさんあります。
思うように肉が食べられていないのはなぜだろうと、改善点を見つけなければいけません。
栄養素や衛生面への配慮から、旨味を失うほど火を通した肉は、我々が食べるとしても美味しいとは感じないでしょう。
噛む力が弱くなった利用者なら、食べるのを諦めるかもしれません。
その意味では、単純に栄養素を補うだけでなく、食べ易さにも配慮した食事作りに取り組むことが、強く求められています。
ケアマネジャーの役割
利用者を支援する原図は、ケアマネのケアプランです。
このケアプランに重大な意味があることを利用者やその家族は知らないかもしれません。
「現場で臨機応変に対応しておきますよ!」
ケアマネを信じてケアプランにサインしたものの、実際にどのような支援となっているのかは家族には見え難い部分です。
先の例で言えば、嚥下の衰えた利用者が食べたいのに食べられない場合、現場に介護士から報告が届いて、ケアマネや社会福祉士から利用者家族に伝えられて、改善策が決まらなければ利用者の快適な食事は満たされないままでしょう。
腰の重いケアマネが担当になれば、それだけ改善策も出てこないので、利用者にとって望むような介護サービスは受けられません。
良いケアマネほど、関係者に要望をシンプルに提案します。
関係者それぞれの任せた提案をしてしまうと、簡単にまとめることが難しく、結果的に対応が遅れてしまうでしょう。
事前に熟知しておくポイントと、結果を誘導するコミュニケーション能力と、現場の現状やポテンシャルとを把握しておく能力が欠かせません。
介護士の役割
介護士の役割は「情報」をケアマネやリーダーに伝えることでしょう。
言いやすい雰囲気なら、些細な気づきも伝達できますが、言いにくい職場なら言い出せないこともあるはずです。
実際、介護現場では、介護士同士の見解で支援方法が変わったり、本来重視するべきポイントが見過ごされたりします。
つまりは、新米介護士ほど、提案しづらい雰囲気の負けて、目の前の仕事を熟すような働き方になるでしょう。
介護士には、実務者研修などを受講し、さらに介護福祉士の資格、ケアマネまで目指して欲しいと思う介護業界の思惑があります。
ただ、仕事としてみれば、その流れに従わないケースも多く、介護士は介護士としての役割を勝手に決め込んでしまいがちです。
介護士の声が利用者の支援方法や、望む未来を変えることだってあるはずです。
しかしながら、現場とリーダー、そしてケアマネまでの風通しが良くないと、利用者やその家族は「仕方ない」と納得するほかありません。
支援方法はあるのに、そこに向かせないように働きかける力があると、現場で働く介護士のやりがいにもならず、「介護の仕事はキツい」になってしまいます。
「こんな支援はできないか?」
そんな気持ちを持ちながら、日常支援に従事できれば、介護士の役割も変化するでしょう。
介護士として現場を知るだけではなく、ケアマネの役割や社会福祉士の役割にも関心を持ち、自身のやりがいや取り組み方に合わせて進むべき方法を決められるのがオススメの働き方です。