介護における技術と心理

介護で行き詰まるのは理由がある!?


介護の仕事に魅力ややりがいを感じて入職した新米介護士たち。

早く施設の雰囲気にも溶け込みたいと、普段以上にいい人を目指してしまいます。

いつも笑顔で、嫌な顔も見せない姿は、理想の介護士像かもしれません。

ところが、3ヶ月を過ぎる頃には、施設に出勤するのが苦痛になり、自分は介護の仕事が向いていないのかもと考え始めるのです。

もしもそこに原因があるとすれば、介護にありがちな「やり過ぎ」をしてしまったからでしょう。

介護の基本は生活支援。

これまでできていたことができなくなった利用者のサポートするのが介護職の仕事です。

そこで、利用者に満足してもらおうとあれやこれやと世話を焼くことに快感を感じてしまった介護士も少なくありません。

そんな介護士たちは、人に優しくしたい気持ちが強く、一方でどう優しくすればいいのかまだよく分かっていないのです。

そこで、言われたことを全力で頑張るようになり、やがて体力以上の要求に気持ちが参ってしまいます。

先輩介護士たちをよく観察してみると、いい意味で「手の抜き方」がとても上手です。

正面から受け止めるべきこと以外は、右に左にと流しながらポイントだけはしっかりと押さえて仕事をしています。

これを全部受け止めようとすれば、どんなに体力があっても、いつか限界を感じることでしょう。

押さえるべきポイント


例えば、介護職の代表的な仕事にも挙げられる「オムツ交換」ですが、最近の紙製オムツはとても立体的に作られています
その証拠に、適正な方法で装着されたオムツは、臀部にしっかりとフィットしているのが分かります。

ところが、どこか無理やり装着した場合、ゴワゴワとした感じでとても頼りなく見えてしまいます。

実際、不適切な装着は、十分な機能が発揮されず、漏れや肌荒れの原因にもなります。

このように、利用者の意向に関係なく、作業上のポイントは絶対に押さえなくてはいけません。

一方で、好みやこだわりに関わる部分に関しては、介護士と利用者の関係でも対応が変わります。

オムツ交換のような原則論で、このこだわりや好みに関わってしまうと、利用者から心を閉ざされてしまうこともあるのです。

つまり、介護で行き詰まるのは、スキルのように変化しない部分と、コミュニケーションのように絶えず変化している部分を混同して行ってしまうことが考えられます。

食べ易さを補う方法として、御茶碗におかずを何品か乗せてあげることがあります。

利用者にとっては、茶碗を持つだけで済むので評判のいい支援方法と言えます。

だからと言って、運ばれて来た食材を断りもなく介護職が乗せ始めれば、どんな気分になるでしょうか。

「食べやすい」という評価は技術的な見解に過ぎません。

「勝手に触らないで欲しい」というのは、利用者から見た介護士の評価です。

このように、技術と気持ちを混同させると、時に大きな失敗をします。

急に利用者が不機嫌になり、問いかけても耳を傾けてくれなくなった。

不誠実なつもりではないとしても、介護士の行為に気分を害するような側面があると、利用者を怒らせてしまうのです。

いい介護士はちょっといじわる!?


不思議なもので、相手の望んでいることを察する人は、ちょっといじわるです。

わざと勿体ぶったり、相手の反応を確かめて行動しているからです。

一方で、正直な介護士は、いつでも正面から取り組みます。

時に介護疲れを招く典型的なケースでもあります。

介護施設で効率的に作業するには、技術的な側面を押し出した方がうまくいきます。

しかし、それだけでは、事務的過ぎて利用者の心は満たされません。

そこで、声掛けが重要になってきて、同じ作業でも印象を変化させることで作業効率を維持しながら利用者の不快感も抑えることができます。

この辺りの距離感は、経験によるところも多く、どこまで距離を縮めるかは介護士のスタイルとなってきます。

中には大変だと分かりながら、利用者を正面から受け止める介護士もいます。

また、面倒になりそうなことには手を出さない介護士もいて、スタイルの違いを感じ取れます。

中高年から介護士になったなら、技術的な介護士ではなく、心に寄り添える介護士になって欲しいと思うのも、こみちが知る利用者はみんな寂しさや孤独さを持っていて、それを見せないように暮らしています。

だからこそ、冷たい仕打ちは必要ではなく、「できないことはできません」と伝えればいいだけです。

あえて利用者が傷つくような言葉を使うべきではなく、できることを介護士は提案しましょう。