ケアマネの思いと介護士の思い

ケアマネというポジション


ケアマネは、介護支援専門員とも言われる介護保険制度の中核をなす欠かせない職種です。

一方の介護士は、ケアマネが立てた計画に基づき、利用者に介護サービスを提供します。

実際に介護現場に立つと「トイレに行きたい!」「お茶が飲みたい!」など、利用者が日常生活で感じたことを素直に訴えます。

もちろん、介護士はそんな要望に応えるのが仕事なのですが、彼らの召使いではありませんので「すべての要望」に応じることがすべてではありません。

あくまでも、ケアマネの作るケアプランに従ったものか否かで、支援方法も柔軟に変化させます。

よく現場で起こるケースですが、1時間に数回のトイレを要求した場合、介護士はどこまで応える必要があるでしょうか。

一般的な常識を理由に、「今、行ったばかりでしょう」と断る介護士もいます。

また、「さぁ、行きましょう!」と利用者の要求に快く応じる介護士もいるでしょう。

ケアマネとしては、ケアプランに利用者の現状とこれからの改善具合をみて、より理想的な近未来を盛り込みます。

特に利用者の体力や筋力は重要な判断基準で、支援方法を誤る簡単に失われ、例えば歩行が困難になり、それに伴って生活範囲も狭くなります。

目安とすれば、要介護5と判断された利用者は、日常生活のほとんどで介助が必要です。

朝、ベッドで目覚めたら、1人で起き上がることは困難です。

場合によっては、ベッド上で朝食を済ませることもあるでしょう。

さらに、介助されてリクライニング機能が付いた車いすで過ごすこともあります。

しかし、多くは30分くらい経つと、背筋が痛くなって再びベッドに戻ります。

このように、要介護5と認定された人は、部屋の中だけでも十分に暮らせてしまうでしょう。

つまり、介護度が進めば、利用者の行動範囲も狭くなり、支援もより室内向けの内容が増えます。

ケアマネの役割を考えると、利用者の介護度に合わせてケアプランの目的も変化します。

要支援や要介護1又は2くらいなら、利用者もかなり多くのことを自分でもできます。

できることは継続し、でき難いことはリハビリで補ったり介護サービスで賄うなど、ケアプランの立て方で満足度も大きく変化するでしょう。

一方で、介護度が進むと利用者もシンプルなライフスタイルを求めるようになり、ケアプランに個性を出すのは難しくなります。

「好きなヨーグルトを毎朝1個食べる」

そんな要望が、日常のアクセントになってきます。

介護士とすれば、介護度によって介助方法を変えることになります。

要支援など比較的活動できる人を対象とするなら、介助方法や展開に変化を付けて、利用者のヤル気や楽しみに繋げることが重要です。

一方、重度の介護が必要な利用者には、体力の負担に配慮したり、短時間でも楽しめる「やり過ぎない」ことにも気を配ります。

つまり、ケアマネと介護士では、それぞれに役割が異なる他、介護度に応じた取り組み方にも気をつけて利用者と接することが重要です。

注意したいのは、ほとんど寝たきりの利用者だから事務的な介護支援で良いのではなく、変化の幅が小さいだけに些細な気づきが不可欠になってきます。

「重要な変化」を見逃してケアプランを立ててしまうと、現場の介護士は事務的な介護サービスを提供することになるでしょう。

食事量が減った利用者に対して、安易に「加齢によるもの」と断定してはいけません。

嚥下能力の低下かも知れませんし、気分が不安定で食事に向き合える状況ではないこともあるでしょう。

本来ならケアプランを立てる段階で利用者の現状を把握するべきですが、介護士から教えられた現場の情報によって、より詳しい利用者の姿をつかむことも可能です。

ところが、ケアマネと現場の介護士には隔たりがあって、問題点を挙げてもケアマネが汲み取らないケースも珍しくないのです。

同様に、利用者から要望を受けた介護士がケアマネに連絡することも珍しく、施設内にケアマネが在中している場合でも、積極的に問題は解決されません。

なぜなら、ある程度介護度が進むと、利用者本人よりも家族の意向が強くなるからだと感じます。

聞き取りのことをアセスメントとも呼びますが、このアセスメント次第で利用者の本音を聞き出すこともできますが、あえて聞き出さないようにしているケースも無いとは言えません。

介護士が気づかないふりをするのは、問題の解決にケアマネや利用者家族の関わりが見えてしまうからです。

利用者本人は望むかも知れないですが、家族が難色を示すことはケアマネも積極的ではありません。

実際問題として、利用者家族を説得するのは簡単ではありませんし、作業の効率も強いられるケアマネは、無難な解決策を選びがちだからです。

現場を見れば、利用者の食事量が減った原因は容易に気づきます。

しかし、利用者がそれを訴えたとしても、施設として、ケアマネとして、家族として、一丸となった答えに結びつかないのです。

「あの件、どうなりましたか?」

「何の話?」

「この前の入れ歯を作り直すって話ですよ!」

「嗚呼、どうだろうね」

介護士がケアマネに言えたとしても、案外とのらりくらりとした対応なのです。

しかしながら、それが現実的な介護の現場です。

介護士は、利用者に寄り添い、あれこれとできることをするのですが、それはケアプランに許された範囲であって、必ずしも根本的な解決策ではありません。

それ故に、介護士としてのやりがいもモチベーションも保つのは大変です。

事務的な介護技術が身につくものの、利用者の気持ちに寄り添いきれないことも多いからです。

介護士から見ると、ケアマネはとてもドライな対応をします。

しかしそれは、介護士が見過ごしがちな「介護の現実」を知るからでしょう。

直接的に関われる介護士と、間接的な立場のケアマネ。

中にはケアマネと介護士の両方をしている方もいますが、仕事の満足度はアップするのでしょうか。

未経験者の場合には、最短でも8年を必要とするケアマネを目指すくらいなら、さらに幅広い相談業務を担う立場の「社会福祉士」としての道を検討する方が良いように思います。

それは、ケアプランに盛り込めない内容の中にも、支援としてとても重要なものが含まれています。

そして、家族と利用者、ケアマネと介護士、その他の連携がとても大切なのですが、多くはどこかで無理が生じて無難なケアプランに落ち着きます。

さらには、そんなケアプランで動く介護士は、計画同様にこれまでの経験を優先したりと、支援にブレが生じます。

利用者にすれば、何のために支援されているのか分からなくてなるでしょう。

実際、介護士が利用者を怒鳴る光景は目にします。

さらに、利用者への説明も、利用者本人のためではないと感じるものもあります。