事情を知ることの意味
先の見えない状況ほど、人を不安にさせるものはありません。
そこに事情通が一人加わるだけでも、予測できない不安は軽減するでしょう。
経験というのは、起こった事態がどんな状況になったのかを理解することです。
次に何をしなければいけないのかが分かっていれば、無駄に騒ぎ立てることもありませんし、何より不安にもなりません。
緊迫した状況であればあるほど、やるべき作業を淡々とこなして行くことで、困難な状況も打破できるからです。
利用者が立ってしまうのは?
介護士の立場とすれば、勝手に動いて欲しくない利用者がいます。
認知機能が低下しているものの、足腰が健康でどこに行ってしまうのか分からないような人です。
「座ってください!」
何度言っても、しばらくすると椅子から腰を上げてしまう利用者がいます。
「危ないですから、座っていて!!」
危険を感じる介護士は、時に声を荒げてしまうでしょう。
そんな時に、その人がどうして立ち上がろうとするのか理解できれば、「強制」だけの介護ではなく、「寄り添い」のある介護に変えられます。
そんな時、自分がその立場になってみることがポイントです。
少しでも動いたものなら、「動かないで!!」と介護士から言われるわけです。
よほどの気の強さがなければ、そんな窮屈さでもじっとしていることを選んでしまうでしょう。
朝から寝るまで、ずっと椅子に座っているのは楽ではありません。
1日6時間でも、慣れていなければ座っているのも大変なことです。
しかし我々介護士というのは、じっとしている利用者を楽している立場と考えがちです。
それは大きな間違いで、介護士から怒られないように過ごすのはかなりストレスが溜まります。
それでも立ち上がろうとするのですから、よほどのことがあるのでしょう。
考えられるのは、「トイレ」に関すること。
尿意や便意を感じたか、または既に違和感がある状況かを疑いましょう。
また、寒さや暑さを感じる時も、落ち着きを失います。
特に寒さの襲われた時は、この状況がいつまで続くのか不安になります。
衣類を一枚でも羽織れたら良いのですが、「寒いので一枚着させてください」と言えない人もいるでしょう。
このように、「なぜ?」に目を向けて、状況分析をしてみると、起こった事態が見えてきます。
つまり、ある程度予測できれば、人は不安になりません。
介護支援で、とても大切なポイントです。
「トイレかなぁ?」
立ち上がる理由を予測して接してみると、利用者の行動が見えてくる時があります。
仮に会話が不明瞭な利用者であっても、場面や状況、タイミングなどを考慮して、アクションを起こしてみましょう。
時に、心の不安定さからくることもあるので、信頼できる家族の話題を出したり、飲み物などで気分を変えることも定番のテクニックです。
パターン化から共感を生む方法
利用者と言っても千差万別です。
しかし、一人の利用者に接していると、その方の好みや興味の傾向が見えてくるでしょう。
天気や気候に関する話題。小説や歌、映画に関する話題。スポーツや料理、旅行に関する話題。
子どもや孫に関する話題。過去の出来事や思い出に関する話題。
これらは、多くの利用者が興味を持ちやすいテーマです。
介護士として、これらに関する話題を増やしておけば、利用者との交流がより簡単になります。
例えば、昭和を代表する俳優が出ていた映画が利用者の興味を惹いたのであれば、そこで「ワンヒット」をゲットしましょう。
ワンヒットとは、この話題なら興味を持ちやすいというきっかけです。
ある利用者の場合、建築や温泉、旅行、結婚観などでワンヒットを見つけました。
そこで、その方と話すときは、ヒットした内容から順番にテーマとして取り上げます。
同じ内容でも、アレンジがあれば何度もでも使えます。しかも、反応の良さが予測できるので、ここぞという場面ほど使えるテクニックです。
「あの方、ずっと同じ話をしている」
ある利用者から聞いた印象です。
確かに、その利用者の望む話題はとても限定的かも知れません。
一般的な人からすれば、「同じ話を繰り返している」ように見えるでしょう。
しかし、我々だって、実はそんなにレパートリーがあるわけではありません。
例えば1分間話続けられる話題を数えたら、10個以上あれば相当、話好きと言えるでしょう。
それが5分、10分と長くなれば、さらに話題は限られてくるものです。
つまり、共感しやすいポイントというのは、話題が豊富な人ならともかく、普通はそんなに多くありません。
そこで、まずは一般的な話題をベースに、アプローチしてみましょう。
みんなの前で話す場合には、「今日は何の日?」的な話題なら自然ですし、そこからさらに2つくらい話を盛り込めれば、5分くらいの話に事欠きません。
話題作りの方法をパターン化することで、より親しみやすい「共感」に繋げます。
特別な話題を「ヒミツ」にする!?
ヒミツというのは、とても興味深いものです。
なぜなら、より親密さを高めるためにも「ヒミツ」を作ることがテクニックになるからです。
「実は…」
人は自分だけが知っていることや相手から特別に教えられたことで、「特別感」が芽生えます。
平然と立ち振る舞って見える人が、実は緊張しているという「小さなヒミツ」も自分だけが知っていたら何だか相手との距離が縮まったように思うでしょう。
このように、「ヒミツ」を上手く使うことで、共通の話題以上に即効性のあるテクニックになります。
事情を知るということは、介護士だけでなく、利用者側にも転用できます。