介護現場でどう仕事を分担するのか?

そもそも仕事を分担するとは?


100個の作業があれば、2人が50個ずつできれば公平に仕事を分担することができるでしょう。

しかし、実際に100個の同じような仕事というケースはまれで、仕事内容は微妙に変化するのが通常です。

つまり、職場の仕事を損得なく公平に分担すること自体がとても難しいと思うのです。

介護現場で起こる不平等


最近、職場では「この仕事が自分の仕事」という具合に、何か一連の仕事だけを頑に続ける介護士がいます。

人数の限られた状況で、しかも多種多様な仕事が発生する時間帯と重なり、誰がそんな仕事の仕方をすれば、残された人の負担は膨大です。

こみちが入浴介助を担当した日、作業分担上、フロアーは残りの介護士スタッフが担当することになります。

約1時間の作業を終えて、残りは風呂洗いと記録を書くという状況でした。

経験ある人なら分かってもらえると思うのですが、入浴介助を終えてフロアーに戻りとタイムスリップしたような感覚に陥ります。

「今、(フロアーでは)何をしなければいけないのか?」

そんな感覚が一瞬、抜け落ちるのです。

先ずは作業記録を書いておこう。

そう思って、首にバスタオルをぶら下げたまま、記録簿に記入を始めました。

ところが何か変なのです。しかし、まだ記録を書くことから頭が切り替わりません。

「何時だっけ?」

やけにフロアーが静かで、利用者の姿もまばらなうえに、彼らはぼんやりとテレビを観ています。

「他の利用者は?」「飲み物は?」「オムツ交換は?」「トイレ誘導は?」

次々と気になる項目が浮かびはじめ、「スタッフたちは?」と改めてフロアー内を見渡しました。

1人はオムツ交換用のワゴンを押しながら個室を巡っています。

「残りのスタッフは?」

もう1人がトイレ誘導しているのも分かりました。

「その他は?」

別の日の同じ時間帯、こみちがフロアーを担当する時、利用者の起しやトイレ誘導、着替えの洗濯や食事で使用したエプロンなどの洗濯、飲み物の準備までを担います。

その代わり、ペアーとなった別の介護士にオムツ交換をお願いするのです。

それでも、起こしを介護士1人では危険な場合、2人の介護士が必要になります。

つまり、どこまでが誰の分担という具合に、仕事を分けることはできません。

現時点でのフロアーの遅れは、時間にして30分程度。

後回しにできる仕事は後にして、今するべき仕事を先にしなければいけません。

風呂洗いなどを一度止めて、声掛けだけで起きられる利用者たちに「フォローに来るように伝えてまわります」さらに、1人では起きられない利用者を起こし、トイレにも誘導します。

便座に座れる利用者を先に誘導し、離れられなくなる利用者は後回し。

仕事の順番も大切です。

そうしていると、オムツ交換を担当していた介護士がステーションに戻って来ました。

「ごめんなさい。飲み物を準備してもらえますか?」

「ああ、うん」

ひと安心です。

そうしていると、別の介護士も顔を出し、飲み物をお願いしたことや声掛け誘導も終盤になったことを伝えました。

「〇〇さんが失禁してしまったの」

突然のトラブルとはいえ、起こらないケースではありません。

「大変だったね」

先ずは労うことが大切です。

「飲み物は?」

しばらくして、フロアーには利用者が大勢集まりました。

あとは飲み物です。頼んだはずの介護士に声掛けすると、「記録をつけていたから…」と答えました。

「じゃあ、まだ準備してないんだね!?」

本当なら風呂洗いに戻りたかったのですが、諦めて飲み物の準備をすることにします。

こみちの勤務する施設では、飲み物の種類の他、トロミ剤の量、温度や分量にも決まりがあります。

場合によっては、家族持参のフルーツなどを提供することもあります。

特にその日の気分で温度が異なる利用者の場合には、事前の確認が不可欠です。

必要となるコップを準備して、先出しした方がいい利用者から提供します。

「今、準備していますから。お待ちくださいね」

待つことができる利用者に、ひと声掛けるのもポイントです。

ほぼ提供が終わる頃、頼んだはずの介護士が手が空いたと言って顔を出しました。

「もう済んだよ!」と言ってしまうと介護士同士の連携は生まれません。

「あとをお願いできますか? まだ、風呂掃除が終わってないから…」

気づけば、フロアーの活気も戻り、まだ時間的には遅れがあるものの誤差の範囲です。

風呂場の掃除に向かいながら、フロアーからは介護士たちが利用者と団らんする声が聞こえて来ました。

仕事を公平に分担することはできない!


だからこそ、排せつ、入浴、トイレ誘導など、決められた作業をマスターしてもらう。

さらに、時間の感覚を持って、スケジュールに合わせた仕事の進め方を覚えてもらう。

場合によっては、優先するべき仕事が何かを考えて、自分の手を止めることも必要だと理解してもらう。

しかし、意外と排せつなどができることを介護の仕事だと思っている介護士が多いこと。

今日のメンバーが動けないことは知っていたものの、あの状況で指示を出そうとしなかったのには正直驚きました。

もう30分もすれば、次のスケジュールと被り、さらに遅れが顕著になるからです。

「仕事ってね。焦っても意味がないんだよ。それにどうにかなるもんだ!」

そんなアドバイスを雄弁に語り出す介護士までいます。

「介護現場が混乱したらどうするつもりなのか?」

「誰かがカバーしていることに気づいていないのか?」

意識のズレ、感覚のズレ、怖いと感じます。

介護施設のレベルアップは難しい!?


偶然にも、こみちはサラリーマン時代にプロジェクトを複数担当していました。

多い時には10本を超え、いきなり話しかけられてもどの仕事のどんな部分なのか混乱するほどです。

仕事の回し方を多く経験したと感じたのも、施設で働くようになってからです。

「介護士の仕事とは何か?」

「寄り添いや声掛けとは何か?」

多くの場合、その職種の特徴的な部分を詳しく解説します。

しかしそれは、仕事としての根底があっての話で、スケジュール管理や連携が取れていないのは現場としてあり得ません。

「〇〇さんが動かない!」

後になってフロアーの滞りを数名の介護士が1人の介護士に押し付けようとしています。

確かにそれぞれが持ち分をこなせれば、理論上は完結するでしょう。

しかし、トラブルも有れば、苦手な作業もあって、必要以上に時間が掛かることだってあるはずです。

何より、遅れが出た時に「〇〇さんが悪い」という意識が芽生え、自分たちでカバーしなかったことは問題です。

まだ社会経験の少ない若手ならともかく、40代オーバーの中高年介護士同士で、このやりとりは根深課題でしょう。