交錯する価値観
以前とは異なり、最近の介護は「自立支援」と「個人の尊重」が重んじられています。
「自立支援」や「個人の尊重」を実現するには、介護士の意識改革が欠かせません。
介護制度の変更に伴い、介護福祉士に「個別ケア」の意識が求められるようになり、その前提となる「実務者研修」では「ICF(=国際生活機能分類)」を含めた幅広い視野を学ぶます。
このような学習プログラムになったのも、「介護=生活支援」という意識ではなく、個々の人生観や生き様までを踏まえた支援が求められるからです。
一方で、介護現場ではどのようなことが起こっているのでしょうか?
近年の初任者研修又は実務者研修で「介護」を学んだ介護たちは、「自立支援」や「個人の尊重」といった言葉。さらに、「寄り添い」や「傾聴」と言った意味を学習したはずです。
もちろん、それ以前の介護に関しても、利用者の目線に立った支援が行われていたはずです。
しかし高齢者介護に対する意識は、「自立支援」や「個人の尊重」とは異なっていた部分もあったでしょう。
だからこそ、介護士の意識改革が実施され、完全移行が始まったのはまだ平成28年度(実施は平成29年1月)です。
つまり、多くの介護士が「これまでの介護」をベースに支援を続け、施設での研修や自己改革で「最新の介護」にアップデートしたことになります。
実際、利用者目線に立つよりも、スケジュール管理を優先した介護スタイルを継続するベテラン介護士も少なくありません。
また、人材不足もあって、サービス残業や時間前出勤を求める場合も改善されていないのが介護業界の課題にもなっています。
特に近年の介護を学び、現場に出る新米介護士たちは、研修中に学んだ「自立支援」や「個人の尊重」という理念と、慌ただしい現場の間で、戸惑いを思えます。
「自立支援」や「個人の尊重」
午前9時に提供した「飲み物」ですが、利用者の中には飲みたがらない人もいます。
理由は、トイレが近くなるからと教えてくれました。
しかし、冬場などは乾燥しやすい時期であり、十分な水分補給がないと排せつが不完全になることもあります。
一方で、利用者は介護士にトイレ介助してもらうことを気兼ねし、声を掛けるにも気を使ってしまう状況です。
「自立支援」を尊重すると、健康面への配慮もありますが「水分補給はとても大切なので、お飲みください!」と声掛けするでしょう。
それでも、先に説明したような理由もあって、水分補給に消極的な利用者はいます。
「自立支援」を踏まえれば、「トイレ介助」を頼みやすい信頼関係とセットで行う必要があるのです。
しかし、「自立支援」を利用者本位と理解した介護士は、強くお願いすることも信頼関係構築にも進まないので、不十分な水分補給から便秘で悩む利用者を増やしてしまいます。
一方で、便秘になることを知っているベテラン介護士は、かなり強い言葉で利用者の迫り、「無理をさせても」飲み干すようにうながします。
利用者の自立支援とはかけ離れた介助ですが、水分補給はできているので座薬等の使用は避けれます。
このように、以前の介護で蓄積された介助方法がある一方で、新しさ介護では利用者の「自立支援」や「個人の尊重」を保とうと試みます。
結局のところ、利用者との距離をさらに近づけ、人生観や生き様に則した介護が必要なのです。
しかし、時間的な制限が介護士を縛る以上、必要なことを優先した効率重視の介護スタイルに落ち着いてしまいます。
介護理念を考える一方で、さらにそれをどう実現させるかまで踏み込んだ学習が必要になってくるのでしょう。