新人介護士さんと

食堂での一コマ


その日、こみちが早番だったこともあって、昼食を11時から取ることになりました。

まだ休憩する人が少なかったのか、食堂も人影はまばらです。

こみちは使用する席をだいたい決めているので、窓側の柱の奥へと向かいました。

「こみちさん、休憩?」

「嗚呼、お疲れ様です!」

声を掛けてくれたのは、施設内でも働き者と評判の75歳の男性介護士。

定年後に介護業界へと移り、ベテランの介護士です。

「この人。新人の〇〇さん」

間違いありません。

先日、一人ぼっちで大丈夫かなぁと心配していた中高年の男性です。

「〇〇です! よろしくお願いします」

そんな挨拶がきっかけで、いつもの席ではなく、彼らのテーブルで一緒に食事することに。

しばらくは、互いの簡単な自己紹介などでしたが、やがて二人が一緒に座っていた理由がわかって来ました。

「〇〇さんとかとも話した?」

「ええ、話しました」

「どうでした? 悪い人じゃないよ。でも口が悪いから…」

「そうですね…」

つまり、新人介護士さんは、職場の人間関係に戸惑っていたようです。

こみちの配属先に比べて、利用者が多いこともあり、介護もスピードが求められる職場。

もしも新米の頃に、こみちが同じ職場に配属されていたらと思うと、覚えることの多さについていけなかったかもしれません。

すると、高齢介護士さんが自身の愛用しているメモを取り出し、座席表を見せてながら説明を始めました。

「〇〇さんは、ほら高倉健に似てる…」

「嗚呼、背の高いあの人?」

「そうそう。で、こっちの女性は…」

「嗚呼…」

単純に100名はいる利用者の名前や特徴を覚えるのですから簡単ではありません。

特に新人介護なら、介護以前のハードルです。

そう考えると、配属先でも「介護」が大きく異なると感じます。

まして、介護施設が異なり介護方針も違えば、そこで働く介護士に求められるスキルも変わります。

その意味では、新しく介護士として働く人は、「施設との相性」が大切です。

「それで、奥さんも介護士なんだって!?」

「そうです。二駅先の…」

「嗚呼、知っている。あそこの施設ねぇ」

新人介護士さんは40代。異業種からの転職で、しばらくは同業他社を探していたものの、思うように就活が進まなかったようで、奥様と同じ介護の仕事を選んだとのこと。

「いずれば夜勤もするんでしょ!?」

「できれば…」

「じゃあ、頑張ろうよ。良い人も多いから…」

一人なった後


結構のところ、会社の良し悪しは求人情報だけでは分からないこともあります。

特に人間関係となると、相性もあるのでケースバイケースでしょう。

しかし、75歳の高齢介護士さんがいたことで、新人介護士さんは心強かったのではないでしょうか。

実際、少し前にいた男性介護士さんも見かけたのですが、年を明けてから会っていません。

辞めていなければと思っていますが、どうなのでしょうか。

介護の仕事は、利用者との触れ合いが注目されます。

しかし、実際は職員同士、異業種交流なども含めて居心地の良さは決まっています。

また、頼れる先輩や上司がいると、新人介護士も相談しやすいでしょう。

一人立ちできると新たに見えてくるハードルもあります。

しかし、介護の仕事が続くか否かは、職場の人間関係が大きように感じます。