利用者がいるから勤められる!?
こみちが未経験で介護士になった時、「この人、大丈夫なの?」とオムツ交換中の利用者に言われました。
「新人なのでよろしくお願いします!」
事前に手順を覚えたつもりでも、いざベッドに横たわる利用者を前にすると、流石に焦ります。
左右にあるマジックテープを外すと隠れていた肌が露わになり、排せつ介助が始まります。
「熱かったら教えてくださいね!」
覚えたセリフを棒読みで伝え、脇に立つ先輩介護士がフォローに入ってくれます。
「横向きになりましょう!」
痩せた人でも、コツを掴むまではとても重く感じます。
手で押したくらいでは、横向きにするのも大変です。
「大丈夫なの?」
「頑張ります!」
不安がる利用者に緊張感も加わって、さらに焦りを感じます。
「押さえておくから…」
「ありがとうございます」
肌を清潔に保ち吸水パットを交換すれば、作業は完了です。
「終わりました。ありがとうございます!」
どうにかこうにか初めての排せつ介助を終えることができました。
今でもその利用者を担当します。
「〇〇さん、(オムツ交換)良いですか?」
すると、こみちを見て、自分から掛け布団をめくろうとしてくれます。
「体調はどうですか?」
「良くないです!」
「風邪でもひきましたか?」
「ひいてません!」
この利用者は認知機能の一部に低下がみられる方。
多く介護士が勤務していますが、名前は誰一人覚えていません。
「では早速、始めましょうか?」
「こみちさん、良いですか?」
「エエ、名前を覚えてくれたんですか?」
「ハイ、こみちさんですよね!?」
「そうです!」
フォローにいる時、この利用者はほとんど口を利きません。
なのに個室で排せつ介助をしている時は、よく話をしてくれます。
時に「意地悪されたという話も…」。
でもどんな介護士にされたのか、名前はおろか性別さえ覚えていません。
「嫌なことする人だねぇ」
「イヤです!」
「本当だね」
信頼関係ができると、利用者はとても心を開いてくれます。
一方で、誠実に、親切でありたいと思うようにもなります。
朝、こみちが出勤すると、ある利用者が手招きしています。
「おはようございます。どうしましたか?」
「あの利用者さんのところに行ってあげて!」
指差す先を見ると、ある男性利用者です。
「昨日、休みだったでしょう!? ずっと、あの介護士はどうしたって心配していたのよ!」
「そうですか? ありがとうございます。あとで行ってみますね!」
朝、他の介護士たちに挨拶をします。そして、申し送り(前回の退社後に施設内で起きた事柄が記録されている)ノートを確認します。
「オーイ!」
「ハイハイ、今行きますよ」
申し送りを読み終える前から、例の利用者がこみちの出勤に気づき呼び掛けます。
「お待たせしました。おはようございます!」
「遅いぞ! いつも休んでばかりだなぁ!」
「ごめんねぇ!」
この利用者と出会った頃は、今ほど親密ではありませんでした。
むしろ、先輩介護士が積極的に関わっていたように思います。
「もう寝たい!」
「朝食は美味しかったですか?」
「ここのメシは美味しくない!」
「アハハ、そうでしたか…」
利用者を部屋に誘導し、歯磨きを勧めます。そして、ベッドで横になってもらいます。
この利用者もオムツを着用しているので、朝食を終えたら順番にオムツ交換に入ります。
「あとで来ますね!」
そう言って退室したのですが…。
担当している業務が変更になり、その日は排せつ介助から外れました。
ところが、この利用者が再びフロアーに戻って来た時にご立腹です。
「どうしましたか?」
こみちが尋ねると、拳を握りしめて何度も揺すぶっています。
「お前が来ると思っただろう! 何で来ないんだ!」
「オムツ交換の時ですか?」
「そうだよ。来ると思ったのに…。どいつもこいつも嘘ばっかりだ!!」
業務の振り分けもあるので仕方ないとはいえ、自分のことを待っていてくれる人がいるのは嬉しい話です。
「ごめんなさい。今日は別の担当になって…」
「もう良い!!」
まだ怒っているのは口調で分かります。タイミング悪くコールも鳴り出します。
「本当にごめんなさいね!」
「もういい。(コール)鳴っているぞ! 行ってやれよ!」
「ごめんね」
「もういいよ」
腕組みをして目を閉じ、その利用者はコミュニケーションを断ち切りました。
「寄り添い」が大切というけれど
「寄り添い」は、利用者の立場になってニーズを聞き出し、支援に生かしたいから大切です。
こみちは、まだまだ経験不足もあって利用者のニーズを読み取れないこともあります。
しかし、利用者は優しい人が多く、アプローチこそ違いますがさまざまな方法でこみちをサポートしてくれます。
「こみちさん、ちょっと!」
指差す先には、車イスの利用者がフラつきながら立ち上がろうとしているところでした。
教えてくれた方に「ありがとう!」を伝えて、急いで利用者に駆け寄り「どうしましたか?」と支えると、真顔で何事もなかったように「おはよう!」と答えてくれます。
「トイレですか?」
「うん。行きたい!」
そんな感じで、こみちが気付けなかった「寄り添い」をフォローしてくれます。
その意味では、教科書で学ぶ介護スキルだけではどうにも補えないことがあります。
実際、介護士たちだけの連携では、安全性を担保できません。
利用者と一緒に作り上げることで、介護現場は快適になります。
だからこそ、介護の仕事は楽しいのでしょう。
これがイヤイヤだったら、苦しいだけの職場になってしまいます。
みんなと一緒に楽しみながら仕事したい方に、介護の仕事はオススメだと思います。
それが介護の醍醐味なのでしょう。