介護施設の違和感
こみちが初めて介護施設を訪れた時の印象から紹介しましょう。
それは、「楽しそうじゃない!」です。
介護士たちもそうですが、利用者たちもどこか楽しそうに見えませんでした。
勝手なイメージとして、利用者と介護士の垣根を感じることなく、和気あいあいとした雰囲気で施設が運営されているのだと思っていました。
「こみちでは介護の仕事など務まらないだろうなぁ」と思った背景は、そんな雰囲気の中に溶け込めるほど、人付き合いが得意ではないからです。
ところが、実務者研修の一環で訪れた介護施設では清潔感もありましたし、整理整頓もされていたのですが、笑いがありませんでした。
ある意味で、「介護施設」とはそういう所なのだと思っていれば良かったのですが、イメージがあったので余計に戸惑いを覚えました。
「こんな雰囲気に耐えられないなぁ」
それが初めて見学をさせてもらった介護施設の印象でした。
「介護職はない!」
「いや、他の施設はどうなんだろう?」
介護士として働くことに抵抗がある一方で、他の施設ではどんな雰囲気なのかも気になりました。
しかし、次の施設も、その次の施設も大きく印象を変えることはできませんでした。
何でこんなにも笑顔が少ない職場なのだろう…。
実際に働きはじめて、介護士はとにかく時間に追われています。
最初のイメージのように、利用者たちと団らんする時間は限られます。
コミュニケーションを取りたいなら、仕事をもっと早く片付けて時間を作るようにする他ありません。
シフト勤務で疲弊した介護士は、いつも疲れを抱えながら仕事しています。
突然に立ち上がる利用者たち
「ちょっと立ち上がらないで下さい!」
介護士の中には、利用者の両肩を押さえつけながら座らせるように試みます。
ある利用者からは、「ちょっとでも動くと怒られる」と教えられました。
確かに、独歩が困難な利用者の場合、「立ち上がり」は転倒リスクにつながる危険行為です。
転倒を防ぐには、「立ち上がられないこと」が重要だと思う施設の運営も当然でしょう。
一方で、認知機能の低下が見られる利用者であっても、生活介護を続ける中で「ここで少し待って下さい!」というようなお願いに従う態度を示してくれます。
「〇〇してくるので、ココに座っていて下さいね!」
トイレの介助中に衣類の汚れを見つけたので、衣装ケースから新しい洋服を持ってくることもあります。
場合によっては、衣類を下げた状態で立ち上がり、足ものをもつれさせて転倒するケースもあるでしょう。
しかし、立ち去る前のコミュニケーションが重要で、返事はしなくても「待っていてくれそうな時」が分かります。
一方で、呼びかけを無視して立ち上がり、挙動も不審になったりします。
多くはジッとしていられない事情ができたからで、例えば下着を汚してしまったようなケースで立ち上がってしまいます。
「どうしたの? 散歩でも行きますか?」
夜間帯など、限られたメンバーでの利用者のケアには限界があります。
同時に別々の場所で立ち上がりが起これば、「防ぎようのない転倒リスク」が発生します。
例えばひとりの介護士では分身でもできなければ、対処できないでしょう。
一方で、日ごろからのコミュニケーションを通じて、「立ち上がりたい」理由を調査することはできないでしょうか。
トイレもその一つの理由です。
他には、長時間の座位で、お尻が痛くなってしまったということも考えられます。
その時、無理やり座らせるのではなく、立ち上がりの理由に耳を傾けてみましょう。
どうやらこれまでは、介護士と利用者は対等の関係ではありませんでした。
耳に挟んだ話だと、介護士の考え方に利用者が従っているケースが多いように感じます。
その意識のままでは、介護士の予見回避能力だけが利用者の「転倒予防」になります。
つまり、同時に2カ所、3カ所でコールが鳴った時に、介護士の予測判断で乗り切れでしょうか。
利用者といっしょ暮らすには、個々の介護士の頑張りだけでは補いきれない限界があります。
注意していても事故が起こるのは、致し方ないことです。
そこには、利用者との信頼関係をどう作っていけるのかがポイントだと思います。
「どうしたの?」
そんな声かけに対する反応で、利用者が何を感じているのかもっと予測できるようになるからです。
「お尻が痛いの!」と立ち上がった理由を語る利用者も現れます。
実際、話せば話すほど、言葉が流暢になります。
それだけ脳が活性化されるのでしょう。
「ちょっと待っていて下さいね」という言葉が使えれば、もっと正確に優先順位を決められますし、転倒リスクを減らせるようにならないでしょうか。