あの転倒事故はなぜ起こったのか?

介護現場で最も注意するべきこととは?


これから介護現場で働きたいと考える介護未経験者の方や、初心者研修、実務者研修などで介護の基礎知識を修得している方にも知っておいて欲しいことがあります。

それは、介護現場で起こってしまう「介護事故」との関わり方です。

介護事故とは、多くの場合、利用者の生命や健康状態を損なう恐れのある出来事を指します。

具体的には、転倒や転落、誤嚥などが代表的なケースです。

今回、こみちが勤めている介護施設でも、ベッドから利用者が転落するという事故が発生しました。

通常、「事故報告書」という書類を作成するのですが、書くのは第一発見者となります。

自身が介助中に利用者を転落させた場合には、介助者が第一発見者でしょう。

しかし、個室のベッドでくつろいでいた利用者が、何らかの原因で床に転落したような場合には、異変を察して部屋を確認した介護士が第一発見者になります。

つまり、目端の利く介護士ほど第一発見者となり、事故報告書を書かなければいけません。

だからと言って、転落に気づきながら素通りしてしまう介護士がいたら、その行為の方が問題でしょう。

事故報告書と似た書類に、「ヒヤリハット報告書」というものもあります。

この書類は、事故には至らなかったものの、事故につながるような出来事が起こった時に作成するものです。

車イスの利用者が立ち上がり歩こうとしていたようなケースが、それに該当します。

なぜ、介護事故は起こるのか?


最も表面的な原因を探れば、転倒事故が発生しやすい状況を作り出しているからです。

ベッド柵の位置やベッドの高さなどが不適切なことで、利用者を危険な状況にさらしてしまったことでしょう。

さらにもう少し深く観察すれば、利用者が動き回ってしまう状況を作った原因や、不適切な設置方法を介護士同士で伝達できなかった原因へと矛先が向きます。

利用者の中には、孤独に不安を感じる人もいます。

個室のベッドに1人取り残された時に、逃げ出したいとか、介護士に会いたいと思ってベッド上をドタバタと動きまわります。

そこで、例えば逃げ出さないようにとベッドの周りを柵や障害物で囲うことは、個人の尊厳を阻害する拘束に該当し、禁止されています。

では、動き回れないようにとベルトやヒモなどで手足を縛るのはどうでしょうか。

これらの行為も身体拘束に該当するので、介護施設では行っていません。

一方で、大きめのクッションを複数使って利用者の身体を覆い、足をバタつかせられないようにするのはどうでしょうか。

拘束とは言えないものの、本来の介護としてはグレーな手段となるでしょう。

介護士も利用者のことを拘束したいと思っている訳ではありません。

しかし、動き回る利用者がベッド柵を乗り越えてしまう状況にあれば、それを回避する為にいろいろな工夫を講じます。

その際、クッションを使って、拘束とは呼べないものの、利用者の動きを封じ込める手段が用いられることも完全には否定できません。

例えば、動き回る利用者のことをそれぞれの介護士がどう評価しているでしょうか。

ある介護士は、言うことを聞いてくれない利用者だと感じているかも知れません。

別の介護士は、孤独な状況を好まない利用者だと感じている答えたでしょう。

さらに別の介護士によれば、「介護事故になってしまう理由が分からない」と答えるかも知れません。

つまり、介護士によって利用者の評価は大きく異なります。

考えても見れば、我々がある人と出会った時に、良い人と感じる人もいれば、真面目な人だと思うこともあるでしょうし、控えめな人だと言うかも知れません。

結局は、相手のどこを見て評価したのかが異なるのです。

当たり前のように思うかも知れませんが、相手のことを100%理解できない以上、完全に介護事故を無くすことはできないでしょう。

しかし、利用者のことを深く知るほど、介護事故は無くなって行くように思います。

ベッドから出ようとする利用者も、施設の暮らしに不満があるとは限りません。

単に部屋を出て見たかったということもあるでしょう。

そう感じた背景には、部屋の外から楽しそうな笑い声が聞こえて、何を話しているのか気になったのかも知れませんし、物音に驚いて介護士を呼びたかったのかも知れません。

ナースコールを押すことさえ理解できない利用者であれば、行動がよりダイレクトになることでしょう。

そこには、声かけの方法を変えることも検討されるべきですし、不用意な物音で驚かせない配慮も必要です。

介護士が仕事なのだから物音は仕方ないと決め込めば、利用者の不安は拭えないままとなり、転落予防はクッションで動けなくすることが唯一の策になってしまいます。

大切なことは、介護士1人の案が唯一の正解ではなく、現場にいる介護士それぞれが原因や工夫のポイントを考えて、相互に共有することです。

声かけによるアプローチが残っているにも関わらず、物理的な手段で解決しようとすれば、利用者の精神的な原因を取り除くことはできません。

利用者は理由なく暴れ回ることはなく、必ず原因があります。

もちろん、簡単に見つけられることもありますが、しっかりと観察しなければ気づかないこともあるでしょう。

介護士の意識改革


こみちは介護施設で働いてみて、利用者と介護士は同等の関係なのだと感じました。

もちろん、見え方や見方によって、上下関係が作られることもあるのですが、「お互い様」という意味では同等なのです。

しかし、支援するとなると「立場が上」と感じる介護士も多いようで、利用者を深く理解しようとは思わない場合も多分に目撃します。

そこには、利用者が心を開かない理由が自身の介護方法にあると気づかないからです。

「あの利用者は…」

そう思ってしまう状況を作り出していたのは、介護士の接し方ということも少なくありません。

つまり、介護事故の中には、適切な介助によって防げたケースもあるはずです。

しかも、ちょっとした心がけの変化で十分なこともあります。

転倒事故が起こった後


事故報告書を作成した後、先輩介護士が事故発見者の介護士に、事故の状況を確認していました。

我々介護士にも、事故の予防策を告げます。

ポイントはベッドのギャッチアップを頭側、足側で行い、柵から出にくい状況を作ろうというものでした。

付け足すなら、ベッドの高さを低くしたり、ベッドの周りにマットレスなどを敷き、転落時にケガしないようにすることもあるはずです。

いずれにしても、事故報告書に書く為ではなく、事故予防という視点であるべきで介護方針や介護術の統一を重点的に検討する必要があるでしょう。

なぜなら、利用者の観察が十分にできる施設ほど、介護士それぞれの個性も見抜いているはずです。

逆を言えば、利用者に無関心であれば、介護士にも無関心です。

もちろん、介護士同士にも言えるでしょうし、普段からのコミュニケーションが不足していれば、原因を見つけられないままに一方的な介護になります。