食事とは何だろう?
私たちは、食事を取って生きています。
健康に気を使い、栄養素に関しても注意を払っている人もいるでしょう。
また、食事は家族や友人、テーブルを囲んだ人たちとのコミュニケーションの場でもあり、ただお腹がいっぱいになればそれで満足とは限りません。
さらに、どこでどんな風に食べるとより食事が美味しい、そして楽しくなるのかは好みの分かれるところです。
私たち介護に関わる人は、「利用者の食事」も同じように考える必要があります。
介護現場で実際に行われている食事介助
こみちの勤めている老人介護保健施設では、約10%〜20%の利用者が食事介助を必要としています。
もっとも、残り80%の人についても食事の配膳や下膳までとなると、多くの方が困難です。
介護士の仕事がたくさんあることを以前にも紹介しました。
他の専門職(看護師など)とは異なり、利用者の生活をサポートすることが業務なので、時間ごとに決められたメニューにプラスして、トイレの誘導なども欠かせないからです。
つまり、食事の30分〜1時間前を目安に、トイレに一人で行けない利用者に声を掛けはじめます。
朝昼晩の食事前には、「口腔体操」と呼ばれる準備運動があり、低下しやすい嚥下(飲み込む力)を向上させる体操もいっしょに行います。
長時間座っていると、どうしても猫背になりやすく、姿勢が崩れてしまいます。
意外に思われるかも知れませんが、健康な私たちでも数時間同じ姿勢で座っているといるのは大変なことなのです。
食事をする意味では、崩れた姿勢を正し、さらに腹筋や背筋、肩周りの筋肉、そして口の周りや舌を特に動かすことが求められます。
口腔体操で行うメニューは、頭から足先までのパーツごとにあって、約15分間を目安に介護職員が見本となって利用者を促します。
介護未経験のこみちも、入職して3週間が過ぎる頃にはひとり立ちしたことを覚えています。
利用者が食べる食事は、介護施設内ですべて調理されることもあれば、委託業者にお願いしていることもあります。
口腔体操の後、料理の提供に加えてお茶の準備もします。
細かいことを言えば、お茶は入れ方次第で味が大きく異なります。美味しく飲むための適した温度と蒸らす時間があるからです。
利用者の中にはほとんど味が分からない人もいますが、我々以上にしっかりと味を楽しむ人もいます。
時間がないからと粗末に入れたお茶は美味しくないので、それだけでも楽しい食事にはなりません。
食事介助というとつい食べさせ方に目を向けてしまいますが、それ以前のところから食事介助は始まっています。
それでも行われてしまう間違った食事介助
ご飯とは別に、メインディッシュ、副菜、漬け物などが提供された時に、あなたはそれらを一緒くたに混ぜてしまうでしょうか?
ご飯を一口、そしてメインディッシュに手を伸ばしたり、お漬物で口直ししたりしながら食事を楽しみませんか?
しかし、介護現場では、多くの食材をまとめて、それを提供している介護職員が少なからずいます。
しかも、大きなスプーンで山盛りにすくい、利用者の口もとに運ぶのです。
その目的は、短時間で食事介助を終えたいからです。
介護職員には時間がありません。そんなプレッシャーが、介護職員に誤った行動を起こさせてしまいます。
意思表示が明確にできない利用者もいます。
「次は何を食べましょう?」
そんな問いかけをしても、「これが食べたい!」とは教えてくれません。
だからといって、ご飯だけ、おかずだけ、と普通の食事では見かけない方法で提供するのは間違えた支援だと分かるでしょう。
「自分なら、お茶で喉を潤したいな」
そんな当たり前の感覚が介護職員には求められます。
言いかえれば、無意識に配慮できる介護職員は「介護」が上手です。一方で、無意識にできないなら、どんなことに注意しなければいけないのか自分から学ぶ意識が必要です。
「施設が教えてくれない」とか「先輩スタッフの説明がなかった」という理由は、これから介護をはじめる人に覚えておいて欲しいポイントです。
こみちが食事介助で特に注意しているのは、「利用者の意識がどこにあるのか」ということ。
食事に関心を向けていない利用者は、イスの背もたれに体を預けたまま動こうといません。
そんな利用者に食事を提供すれば、むぜ混んだりのどを詰まらせたりしてしまうでしょう。
相手からの反動が有る無しに関わらず、「〇〇さん、何から食べましょうか? 美味しそうな焼き魚ですね! 食べてみますか?」と声かけをして、利用者の意識をこちら側に向けるようにしています。
「美味しいですね!」
美味しそうに食べてくれれば、そんな声かけもいいと思います。
いずれにしても、誤嚥(間違えて気管を詰まらせてしまうこと)させないように注意しながら、利用者のペースで食事することが大切です。