介護の基本 利用者の「移動能力」を観察する

介護におけるADLの役割


ADLとは、日常生活動作とも言われます。このADLは、その後に作成されるケアプランの根拠にもなる重要なポイントです。

特に、介護では「食事」「排せつ」「入浴」が重要視されますが、ADLに関しては「移動」に関するアセスメントがキーになります。

なぜ、利用者を介護する際に「移動」が大切なのでしょうか?

私たちの日常生活を振り返ってみると、テレビを見たり、洗濯をしたり、買い物や映画を見に出掛けたりとさまざまな行動によって私生活が構成されています。

もう少し介護的な考え方をすれば、心身機能の中でも「移動」のレベルがそれらの行動を制限したり可能にしたりすることが分かります。

心身機能の優れた人の中には、車イスでも一段であれば段差を越えることができることがあります。

しかし、実際の私生活では、転倒リスクや快適性を踏まえると、独歩ができる人と車イスを使用する人では行動範囲が異なることを理解できるでしょう。

つまり、健康な時に過ごしていた生活を心身機能が低下した後も維持することは簡単ではなく、何らかの支援やサポートが必要なのです。

移動手段を再確認


健康な人なら、一人でもある程度の距離を歩いて行けます。また、電車やバスを利用すれば、さらに距離を伸ばせるでしょう。

しかし、脚力に不安があれば、「独歩(一人で歩くこと)」による転倒リスクを考えなければいけません。

なぜなら、高齢者の転倒では足の付け根にある大腿骨と呼ばれる部位が骨折しやすいと言われます。

骨折すれば、骨同士が引っ付くまで数ヶ月間、固定することになるでしょう。若い頃であれば、筋力も回復しやすく、松葉杖などを使って歩行練習をしていても、十分に独歩まで回復します。

一方で、高齢者の場合はどうでしょうか?

骨が元どおりになる期間も長く、さらに衰えた筋力を回復させることも容易ではありません。実際、転倒をキッカケに寝たきりになってしまうこともあるくらいです。

つまり、高齢者にとって「転倒のリスク」は配慮されるべきポイントなのです。

独歩に不安を感じる時は、室内であれば手すりの設置や家具などに掴まれる環境整備が欠かせません。

それでも不安を感じる場合には、杖や歩行器、シルバーカーのような道具も併用します。

「歩行」から「立位」へ


歩行そのものが安定しないと判断されると、今度は「立位」という視点でADLを観察します。

「立位」とは、つまりその場に立つことを指します。壁や手すりを使っても構わないので、何分または何秒間そこに立っていられるかが重要です。

これにより、ベッドから車イスへの「移乗(乗り移り)」ができるか否か判断材料になります。

また、立位できる時間は、入浴時の衣類の着脱方法にも影響します。

言い換えると、「立位」できるか否かによって、半介助から全介助へと変化します。

介護度を見極める際のポイントは、移動や自立だけではありません。しかし、移動手段を知ることで、どんなライフスタイルになるのかは想像できるでしょう。

介護職員としての心得


生活支援を主な業務として行う介護職員ですが、利用者のADLを踏まえた介助を意識しなければいけません。

なぜなら、介護職員の一存で支援し過ぎることは利用者の残存機能を低下させることにつながるからです。

先にも触れましたが、転倒リスクに注意しながらも、できることを少しでも増やせる介助が必要です。

実際、ふらつきがあるために自立ができない利用者であっても、介護支援によっては立位が可能になることも珍しくありません。

介護職員は、「できない」と決めつけることなく、残存機能を回復できるような支援を心がけましょう。

また、必要によっては担当ケアマネとの連携を図り、ケアプランを修正できることもあるでしょう。

機能訓練回復士がリハビリを行いますが、日常生活をつねに支援する介護職員の役割はとても大きいものです。