結局、退所を決めた利用者の覚悟

 介護施設は公益性が問われているのか?

介護業界に詳しくない方や、働いているても現場仕事を熟しているだけの方は、もしかすると「社会福祉法人」という言葉を聞いたことがあっても特別関心がなかったりするかもしれません。

介護施設と言っても、「社会福祉法人」の他に「株式会社」が運営していることもあります。

両者のもっとも大きな違いは、「設立目的」にあると言えるでしょう。

社会福祉法人の場合には、法人登録される際に、「福祉関連の事業」を行うことを届け出ているでしょう。

そのため、社会全体で社会福祉法人の運営を支える意味もあって、「法人税」などの税金面で優遇措置が取られています。

一方、株式会社として介護施設を運営することも、種類によっては可能です。

しかし、株式会社の場合にはその設立目的が利益追求にあることから、一般的な会社同様に法人税などの優遇は受けられません。

ある利用者を施設で預かり、一定期間サービスを提供すると、介護保険制度に従って介護報酬を受け取ることができます。

その金額は、介護度と呼ばれる心身機能の度合いで決定されるのですが、社会福祉法人でも株式会社でも、同じ程度の利用者なら報酬額は同額です。

一方で、報酬は施設にとっての利益ですが、納税の段階で納付額が異なってきます。

つまり、社会福祉法人として運営するには、「公益性」が問われるなどの制限もありますが、それだけ広く社会に役立つことを目的とした組織でもあります。

「介護老人保健施設」は株式会社では運営できません!

先に説明すると、「介護老人保健施設」はその公益性の高さから「株式会社」という法人では運営が認められていません。

つまりは、「社会福祉法人」として設立が認められた組織でないと、「老健」を運営できないのです。

というのも、病院などで治療を受けるなどして、そのまますぐに自宅へと戻れる高齢者は一部です。

足腰や弱くなっていたり、考えることが困難になって、日常生活がうまく送れないケースも出てきます。

そんな時に「老健」を利用して、リハビリなどを受けたり、日常生活を他の利用者と行うことで、自宅復帰を目指したサービスを受けられます。

老健にすれば、単純に利益を求めるのではなく、利用者の自宅復帰に寄り添うサービスを目指す代わりに、運営を左右する「納税」面で優遇されています。

ある利用者が退所することになった!?

その利用者とは、物取られ症候群が疑われ、自室から頻繁に物が無くなると訴えていた方の話です。

約半年が経過しても、具体的な対策はなく、利用者の「妄想」と決め込んだ対応が続いていました。

「この施設が嫌なら、やめてもらってもイイ!」

にわかには信じられない言葉ですが、そんな話すら囁かれています。

「物取られ」そのものは、介護現場では珍しくない症状です。

程度こそ異なりますが、利用者は何らかの支援が必要だからこそ介護施設を利用している方々です。

そこには一般常識だけでは応対しきれないことも発生しますし、それこそが「介護」の本質に関わる部分でしょう。

つまり、一般的な思考で判断していると、利用者の悩みや本心を知ることはできません。

にも関わらず、利用者は施設との対話に見切りをつけて、「退所」を選びました。

こみちとしては、介護施設が利用者から見切られたことを「学び」とするべきだと考えます。

なぜ、利用者の悩みや本音に寄り添えなかったのか。

介護従事者としては、とても歯痒い思いです。

最も、「退所」するしか解決策がなかったことは、両者の関係を見れば想像ができます。

自身のスタイルを崩そうとはしない。相手の考えを「ベース」に解決策を思案できない。

それでは、結果が良くなるはずはありません。

「自分たちは十分に役目を果たしたのに…」

被害者のようなスタンスで、相手と向き合えば、もう関係を修復することも不可能でしょう。

少し前、「ここが好きなの! できれば終の住処にしたいと思う」と話してくれた利用者ですが、すでにその時は「退所」に向けた手続きが始まっていたのでしょう。

善は急げ!?

月末の退所かと思いきや、「今週の土曜日には出てしまう」という話です。

もう話合う時間もないだけでなく、退所後に入る新しい利用者まで決まっているといいます。

問題がこじれたら、それを修復するよりも、退所させれ新しい利用者を入れれば良い。

まるでそんな風にも見えてしまいます。

自分たちのスタイルを通せばイイというままで、社会福祉法人として公益性を果たせているのでしょうか。

先にも触れましたが、「面倒なこと」こそ介護なのです。

それを事務的にカットしてしまうと、利用者はモノのように扱われてしまいます。

だからこそ、介護保険制度が始まったはずなのですが。

正直言って、今回の「退所」に胸が苦しいです。

どんな思いで、半年以上も孤独に耐えながら改善策を待っていたのかと思うと、介護従事者としては「全く寄り添うこと」ができなかったと感じます。

70代、80代になって、施設から阻害されるという扱いに、利用者はどれだけ苦しめられたでしょうか。

対応策がほとんど講じられていないと感じるだけに、残念でならない結果を迎えたと感じます。