介護事故とは?
一般的に知られている「介護事故」とは、「転落」や「転倒」、「誤嚥」「誤飲」なのでしょう。
その中でも、「転落」や「転倒」の事故は、なぜ起きてしまうのでしょうか。
介護施設によっても異なりますが、日中は一人の介護士が10名程度の利用者を担当します。
その際、利用者10名が軽度の介助を求めるような要支援に分類される場合と、ほぼ全ての行為に介助が必要となる要介護4や5の場合では、介護士に求められる負荷も異なります。
夜間帯にもなると、一人の介護士が20名を超える人数を担当することも考えられ、個々の利用者の心身機能を把握しておかなければ、思わぬところで「介護事故」へと繋がることでしょう。
介護士の未熟さや怠慢が事故の原因であれば、改善策も明確です。
しかし、新人を研修することもあるベテラン介護士でも「介護事故」が発生するのですから、「介護現場」は常に事故と隣り合せなのだと言えるでしょう。
もっとも、ベテラン介護士であっても、慌てていたり、他ごとに気を撮られていたりすると、事故にはならなくても「ヒヤリハット」に該当するような危険があります。
利用者の元を離れる際に、「何をどこまでしておくべきか」は個々によっても異なるので、その認識を誤ると「事故のリスク」も高まります。
ベッドから車椅子への移乗は、介護士であれば1日に何度も行うでしょう。
無意識であっても、その手順が抜けてしまうことも少ないはずです。
しかし、そんな移乗であっても、急に声を掛けられたり、別の利用者に駆け寄る事情が発生したりすると、手順が抜け落ちてしまう可能性もあります。
その時、ブレーキやフットボードの開閉を忘れてしまうと、利用者によっては不安定さからバランスを崩してしまうことも考えられます。
特に夜間帯は、多くの利用者を日中よりも少ない介護士で見守ります。
他の介護士のミスをフォローできれば事故にもなりませんが、人数が少ない場合にはちょっとしたミスでも事故へと発展します。
今回の事故はなぜ起きたのか?
今回は利用者の転倒事故でした。
午後9時過ぎということもあり、遅番のスタッフも現場を離れ、夜勤帯だけの状況になった時刻です。
また、午後9時という時間帯は、これからベッドで本格的に睡眠を始める頃で、利用者から「トイレ誘導」を求められる時刻とも重なります。
つまり、普段であれば、見守り程度でも十分な利用者をトイレまで誘導する場合に、別の利用者から連続してコールがあると、どうしても介護士は一瞬でも気を取られます。
場合によっては、誘導中の利用者よりも、コールして来た利用者の対応に頭が働くこともあるでしょう。
そして、いつもよりも一手少ない介助のまま、持ち場を離れてしまうケースも否定できません。
そんな時に、いつもなら「見守りだけでも十分な利用者」に「介護事故」が起きてしまいます。
介護士にすれば、「何で?」というケースですが、例えば介護施設で設置されているトイレには手すりが装着されています。
その手すりを上げたままにしたことで、バランスを崩した利用者が手すりをつかめずにそのまま転倒することだってあり得ます。
いつもなら当たり前のように手すりまで確認しているはずですが、慌てたことで「一手」を省いてしまったのです。
場合によって、「その一手」はいろいろと変わります。
トイレの便座にしっかりと座っている利用者が、急に自身の靴に付いたゴミを取ろうとして頭から転倒することも無いとは言えません。
事故の詳細を書き記した報告書を読んでいないので詳しい状況は分かりませんが、介護事故はほんの一瞬の判断ミスで起きてしまいます。
ミスが事故にならないことも多いのですが、些細なミスが大きな事故になることもあります。
特に高齢者の転倒事故で、大腿骨を骨折することがあります。
足の付け根にある骨で、大腿骨を骨折すると寝たりになることもある大きな事故です。
高齢者は筋力が低下しているだけに、骨折などで一定期間安静状態が続いてしまうと、そのまま歩けなくなることもあり、寝たきりや歩行能力の大幅な低下が懸念されます。
尻餅をついて終わる転倒事故もある中、大腿骨を骨折してしまえば利用者の生活は一変します。
より快適な暮らしを提供したい一方で、介護事故をどう防止すれば良いのかは介護施設、介護現場、介護士の悩みでしょう。
「あの時に!」
そう思う「一手」が起きてしまうのが介護現場です。
複数から舞い込む依頼を受けながらも、どこから始めるべきかを瞬時に判断しなければいけない意味では、ベテランでも十分に注意が必要なのです。