介護業界の現実
これまでに、何度か「介護とは何か?」について触れてきました。
その中で「介護業界の今」を、現役介護士の立場から紹介しています。
しかし、それは「介護」の本質や目指すべきケアについてのものでした。
では、報酬という意味で、介護業界の現実はどうなっているのでしょうか。
処遇改善手当など、介護業界の報酬アップを後押しする政策もありますが、残念ながら労働に見合った報酬には達していないと思います。
1つには、高齢者介護の場合、生死関わる業務も少なくありません。
実際、介護未経験者として働きはじめたこみちでも、数名の利用者とお別れしています。
その度に自分の介護は良かったのだろうかと考えてしまいますし、他の利用者についてもできるだけ要望に応じてあげたいと日々奔走するのです。
その辺りは、異業種ではなかなか味わうことが難しい感覚でしょう。
そして、そんな介護にどれくらいの価値があって、自身の報酬に反映させられるのかは判断が難しいところです。
一般職の営業マンのように、売上額で追加報酬を得られるというようなシステムがないからです。
介護は、個人対個人の図式が多く、作業の効率化はケアの低下と紙一重なのです。
介護士の月給
介護士の報酬は、正社員として採用される常勤職員と非正規で採用されるパート職員で大きく異なります。
正社員の場合、基本給又はベース給をもとに、資格手当や住宅手当、夜勤手当に通勤手当、さらに賞与が加わって年収額が決まります。
一般的な介護士の場合、都市部と地方では報酬に差がありますが、年収で300万円前後が基準となるでしょう。
300万円の報酬とは、概ね基本給15万円に各種手当として5万円が加算され月給20万円、さらに賞与4ヶ月分(この場合、基本給が基準とされるので、60万円となる)が加えられたことになります。
つまり、夜勤手当が少なければ月当たり数万円の減額となるので、正社員でも20万円に届かないケースも少なくありません。
まして、介護未経験者となれば、覚える仕事の量や背負う責任の重さを考えると、報酬額が見合っていないと感じる人もいるはずです。
それが、介護業界を就職先から外す理由にもなるでしょう。
だからこそキャリアパスが重要視される
介護業界は、キャリアパスという考え方を強く求めています。
簡単に言ってしまえば、業務の中で成果を見出すのが難しいからこそ、資格や研修を受けることが大切なのです。
介護未経験者でも、介護の施設で働くことは可能です。
しかし、キャリアパスが尊重されるのですから、無資格のままで報酬アップは期待できません。
給料を上乗せさせるためにも、初任者研修から実務者研修、さらに介護福祉士と可視化できるステップが重要です。
もしも、介護業界でその努力を怠れば、報酬がアップしない理由は介護士自身にあります。
月給14万円は高いのか安いのか?
巷では、月給14万円が論争のネタとなっているようです。
安いという人もいれば、努力しない自分が悪いという人もいます。
こみちの考えとしては、月に14万円を得ることと正社員で14万円の報酬を得ることは違いますし、その給料が高いのか安いのかにこだわるよりも、伸び代がどれだけあるのかがポイントだと思っています。
実際、高いスキルが求められる仕事の中には、14万円さえもらえないケースも少なくないからです。
したくもない仕事が高収入だからいいという人ばかりではありません。仕事選びの難しい部分です。
例えば、有名な劇団に所属し、そこで実績をつけることで次のステージが見えてくる場合もあるでしょう。
キャリアをどうつけるのかで、自分自身が望んでいた働き方で稼げるなら、それが一番だと思うのです。
その時、月給が14万円で満足できないなら、別の業界に進んでもいいし、さらにキャリアアップを目指してもいいでしょう。
この過程がとても大切なのです。
そして、中高年からはこの過程がなければ、思ったような結果を出せないでしょう。
それでも介護業界を勧めるワケ
介護業界は楽ではありません。むしろ、大変なことがたくさんあります。
しかし、知識と技術を身につければ、自分の価値観を生かしながら働くことができます。
もちろん、関係者と話し合ったり、さらに質の高い介護を目指したりしますが、自身が納得しながら進めることに大きな意味があります。
自身を語ることができるバックグラウンドができれば、そこからの展開は今以上に選択肢が増えるでしょう。
現に、こみちの施設でも、60代70代の介護士が中心メンバーとして活躍しています。
少し余談
インターネット上の情報をもとに、ある種の知識や技術を学び、稼ぎ出すことができるという人もいます。
確かに、できる人にとってみれば、面白い時代となりました。
しかし、それだけ時間の流れが早くなったからこそ、同じことをずっとしていても成果を出すことができません。
できない人は、いつまでもできないままということもあり得ます。
つまり、今すでに稼げている人はどんな時代になっても生きていけるでしょう。一方で、我々のような凡人は、彼らのように器用に生きることはできません。
その意味でも、基準となる柱を作り、そこを拠点に展開していくべきなのです。
14万円の稼ぎの部分で、報酬としてなのか給料としてなのかは大きな差です。会社員として勤めることで、社会的な信用や会社からの援助を受けられます。
しかし、個人の場合には、転んでも自分でどうにかするしかありません。
十分な蓄えがあるなら話は違いますが、やはり稼げることだけにこだわるのはハイリスクです。
特に自身の基盤を固めたい時期は、会社と上手に付き合っていくことも必要なのです。