急な辞職者が現れたことで…

 ある介護施設の謎に遭遇した!?

未経験から飛び込んだ介護の仕事も、もうすぐで3年を迎える。

そして、来春に開催されるだろう「介護福祉士国家試験」を突破することをこみちは目下の目標としている。

この3年で、高齢者のケアの難しさと可能性に気付かされた一方で、介護施設の経営はとても拙い部分が目立つと感じている。

少し強い言葉を使うなら、一般企業では事前に予測しているマージンが、今の介護現場には一切無い。

例えば、人材募集を行う場合、何より最初に始めるべきは「これから働きたいと思う人にとってのメリット」を作ることだ。

そうでなければ、希望者が現れるはずもない。

しかし、今の職場では、今働いている人や方法が固定され、新たに加わる人が「合わせる」というスタイルになっている。

別の機会ではあるが、忙しいとあくせく働くスタッフがいて、何がどう忙しいのかと思ったら、今しなくても間に合う仕事をいくつも抱え込んでいた。

そこまでくれば、「どうぞご自由に!」としか言いようがない。

同僚として仕事の進め方を話し合うというのも方法だが、どこかそれほど熱が入らない。

異業種のサラリーマン時代に「100」を目指して切磋琢磨していたなら、今は「50」とか「30」とかの意識になってしまう。

なぜそうなるのかというと、あまりにスタッフ間の意識にズレがあって、しかも先に紹介したように「今いる人は変わらない」をずっと貫いている。

それではもう無理だという状況になっても、変わろうとはしない。

もしも変化を求めるなら、批判覚悟でこみち自身が責任を持つしかない。

何のために?

流石に、そこまで自分を犠牲にして尽くせるほどの謙信さは持ち合わせていない。

実は、今月末で同じ配属のスタッフ2名が突然辞職することになった。

もう今月も21日になってのことで、来月のシフト編成にも影響するらしい。

「こみち、また常勤に戻れば?」

何も分かっていないスタッフの一人が、そんなことを口にしていた。

それを聞いた上司も、どこか可能性を求めたような視線を送ってくる。

でも、そこでそんな解決策に目が行くことそのものが、今の職場のダメな部分なのだ。

確かに人件費としては派遣スタッフを採用するのは割高かもしれない。

でも、そうやって外部の力を借りやすくすることは、既存の業務形態を見直すきっかけにもつながる。

しかし、今いるスタッフで踏ん張るというスタイルは、踏ん張らない人が変わらないままということの裏返しでもある。

無理して頑張っても、実際に雇用を変更した時に驚くほどガッカリするような契約内容だったことは忘れていない。

それがこみちに対する今の施設の評価だと理解している。

しかし、こんな相手に限って、「(不満を)言ってくれたら…」とそんな言い訳が出るのもありがちな話だろう。

でも言ったら見直して、言わなければ配慮しないという社風では、人材など育成されるはずがない。

介護する人もされる人も嬉しくないと思っていながら、でもそれに気づかない人は変化もしないでそのまま。

今の職場は、やる気が起きない。

それでも現場に出れば、精魂尽きるまで働いている自負はある。

それは介護を学ぶ自分のため。

そして、巡り合った利用者のため。

でも施設のために頑張る理由が浮かんでこない。

それではダメという部分と向き合わないままでは、何も変わらないだろう。

それにしても辞職者の話は全く知らなかった。

来月まで残り10日で、シフトは組めるのだろうか。

上司は施設長と相談し、派遣スタッフの手配を頼み、同時に基本業務のマニュアル化と既存スタッフのスキル向上を早急に進めるべきだ。

必要が有れば、給与の見直しや担当業務の打診なども含まれるが、残り10ほどでは間に合いそうにもない。

本音としては、介護を続けるなら別の施設でも働いてみたいと思っていた。

それは、今の職場が変なのか、介護業界全体がまだ発展途上なのかを知りたかったから。

その意味では、今の施設に残る理由は、今のところほとんど見当たらない。

来春の試験が終われば、その後の進路は改めて考えるつもりだ。