どっちが先なのか?
人という動物は、優しくされると相手に好意を抱きます。
しかし、自分から優しくすることはなかなかできません。
介護士として利用者に尽くす立場でも、その考えを変えられる人は少ないように感じます。
「◯◯して下さい!」
そんな風に利用者から頼まれて、「ハイ!」と快諾できないのです。
場合によっては、「すいませんが…」と利用者が謙る始末です。
「優しくしてくれたら、自分も優しくする」
中には一回くらい優しくされても不十分で、十分に優しさを受けて、やっと心を開ける介護士もいます。
「ありがとう」「助かりました!」
スタッフ同士でも、そんな言葉を多用して、働いてもらう工夫が必要です。
それは、「働いてもらう」ということが難しい現状だからです。
ある人は、「自分は正しい」と思い、他人に気を配らない人もいます。
それは、他人を何度も誉めて、やっと動いてくれるくらいなら、自分でしてしまえば良いからです。
そんな介護現場は、忙しく動き回るスタッフと、数人が固まって談笑しているスタッフに分かれます。
利用者から見ても異様ですし、面白いのは忙しいスタッフを呼び止めることです。
先日の記事で、コロナ禍からスタッフが疲弊していることを紹介しました。
しかし、全てのスタッフが疲弊しているのではなく、動くスタッフが潰れ始めて来たのです。
通常業務に加えて、利用者たちも心理的に不安定ですし、コロナ禍対策に乗じた追加作業も増加しているからです。
変化に気づけないスタッフは、以前のような働き方から変えようとしませんし、変化を求めても予想とは異なる反応を示します。
仕事ができない介護士の反応
自分が理解して仕事をしたいという信念におかしい所はありません。
しかし、理解する工夫が必要なのはいうまでもないでしょう。
「◯◯してくれませんか?」
スタッフからお願いされて、「必要ないでしょう!」と頭ごなしに拒絶するのはどうかと思います。
「まだ早いので、◯時になった始めましょう」というような代替え案を提示するなら分かりますが、「嫌だ!」と拒絶をすれば忙しい現場では働くスタッフが処理するしかありません。
高齢者スタッフにみる特徴
介護施設には、65歳を超えたスタッフも働いています。
人手不足もあれば、幅広い年代のスタッフによる介護を実現するためでしょう。
しかし、これまでに接してきた高齢者スタッフには特徴があって、作業と時間が結びついていないことが多いようです。
つまり、「何時になったら何をしなければいけない」とか、「間違えた時にどこが間違えたからやり直さないといけない」ができません。
お昼に使う紙おしぼりを2時間以上も前に配り出し、「少し早すぎませんか?」と訊ねると、「お昼に使うでしょう?」と答えるのです。
「準備すれば仕事が終わる」と考えているのか、「◯時に◯◯する」が難しいのです。
かと言って、別の仕事は時間が来ても気になっていませんし、思い出したように午後の仕事を始めたりします。
「職場改善」に不可欠なことを考える
その一つが「マニュアル化」でしょう。
メリットは、仕事が具現化されて、誰にでも分かりやすいということです。
一方で、仕事が明確になるので、介護士それぞれが配慮して来た細かな作業が切り捨てられる可能性もあります。
特に介護施設は、スケジュールが仕事ではなく、利用者の異変に寄り添うことも求められます。
精神障害を持った利用者場合、5分や10分で対応が終わるとも限りません。
マニュアル化によって、繊細さを求められる業務も、ある程度パターン化されてしまうのです。
かと言って、マニュアル化しなければ、仕事を認識できない介護士は、自分なりの働き方を変えることができません。
場合によっては、人材不足の介護施設で辞職されてしまうかもしれません。
そうなった時に、残されたスタッフがさらに大変なので、切るに切れない現状があります。
事実、施設によっては派遣スタッフを確保し、人件費が膨らんでいることも少なくありません。
ただでさえコスト膨らみやすい介護施設だけに、人件費増加は深刻な問題です。
そこで、現状としては小手先の業務改善が増えます。
マニュアル化による阻害も踏まえて、明示しないままの口頭指示が増えるのです。
しかし、それに対応できるのは動くスタッフで、肝心な人材の活用にはつながりません。
それだけ今の介護施設は、行き詰まった経営になりつつあります。
コロナ禍対策がさらに問題を深刻にさせ、経営陣の判断の遅れが、現場スタッフの疲弊を促します。
要求だけを暗に増やし、業務上の簡略化が難しく、結果として作業のボリュームが増えています。
スタッフ増員も難しく、安全性やサービスの質も低下させたくない。
結果、個々のスタッフに不満が増え、疲れた表情で働いています。
そんな現状を打開するには、問題を一度区切り、一方で新しい試み、もう一方で問題点の改善に着手するべきです。
新しい試みの部分では、常勤だけでなくパートスタッフであっても働いてくれる人に、今まで以上の負担を強いる代わりに、時間給の見直しを図ります。
一方で、問題改善になる部分について、特にスタッフの質や働き方改革に関しては、勉強会を積極的に開催します。
勉強会で取り上げる課題
「◯時になりました。何をしなければいけませんか?」
極端に言えば、勤務中の仕事を話し合うことです。
「その時に気をつけるポイントは?」
利用者対応やサービスの向上に、向き合う時間が増やしましょう。
特に高齢者スタッフを雇う場合、職場での指示だけでは理解できないことも多く、優先順位が伴わない働き方が目につきます。
そこで、介護技術の部分ではなく、まずはタイムスケジュールの管理から時間を掛けてマスターしてもらいましょう。
地味な作業ですが、そのひと手間が他のスタッフを働きやすくし、共倒れしないことになるからです。
事実、休日でも身体が疲れ過ぎて何もできなくなってしまいます。
そうなってしまうと、介護の仕事にやりがいを感じても、別の仕事を検討する人が出て来るでしょう。